第29章 【Draco and Draco】
クリスはだんだんと怒りを抑えることが難しくなってきた。元々人一倍短気なクリスに、この作戦は明らかに向いていない。どうにか平常心を保とうと深呼吸を繰り返すクリスだったが、次なるドラコの台詞に、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「それじゃあ、明日の『魔法薬学』も少し早めに行って僕らの席を取っておいてくれよ。なるべく後ろの席がいいな、それも端の方。それと飛行訓練の授業も僕と――ちゃんと聞いているのかいクリス?」
「……や……」
「や?」
「やってられるかあ!!もう止めだ止め、ばっかばかしい!だいたい何で私一人が割りを食わなくちゃいけないんだ」
ドラコをひざの上から引っぺがすと、クリスは無茶な注文を言いつけてくる本人ではなく誰もいない空中に向かって怒鳴った。確かにドラコもむかつくが、自分一人が苦労を背負わなくちゃいけないというのにも腹が立っていた。
「な、止めるって……じゃあ僕が魔法省に手紙を送るぞ、いいのか!?困るんだろう?」
「知るもんか。もう私はこの件から手を引くって決めたんだ、後はハグリッドが自分でどうにかすればいいんだ」
そうだ、ドラゴンを孵したのはハグリッドなのに、どうして親のハグリッドが責任を取らずに自分がドラコのご機嫌を取らなくちゃいけないのか。こんなの間違っている。クリスは立ち上がると、ローブについた落ち葉を払うのも忘れ、おまけにドラコが話し掛けているのにも気付かず、イライラした足取りで談話室へと帰っていった。
一方その頃、グリフィンドールの談話室では――
「クリス、上手くやってくれてるかしら……」
「う~ん……あの時はああ言ったけど、クリスの性格を考えてみると、成功する方が難しいかなぁ」
「僕絶対に失敗すると思うよ。賭けてもいい」
――彼らも彼らで、クリスが失敗する事は既に予想済みだった。
* * *
その後本当にクリスが抜けてしまい、仕方なく3人は初心に戻って翌日から再びハグリッドにドラゴンを森に放すように説得を試みた。
しかし何を言っても、ハグリッドは頑として首を縦に振らず、「生まれたばかりで森に放すなんてとんでもない」と主張を繰り替えした。だが、1週間と経たずドラゴンの雛は3倍にも大きく成長し、今ではハグリッドのベッドを1人で占領するほどになっていた。