第29章 【Draco and Draco】
「駄目だ、そんな事出来ねぇ!!こいつはまだ生まれたばっかりなんだ。森なんかに放したら他のやつらの餌食になっちまう。それでなくとも森に住むケンタウロス達はよそ者を嫌うんだ、見つかったらタダじゃすまねぇ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!」
ハグリッドはドラゴンの雛を守るように両手で包み込み、コガネムシのようなつぶらな瞳から大粒の涙をこぼした。指に噛み付きながら鼻から燻った炎を出しているドラゴンを見ていると、これなら小さくても案外森で暮らしていけるんじゃないかとクリスは思ったが、ハグリッドの目にはどうやら小さな小鳥の雛のように映っているらしい。
「こうなったら仕方がないわね――クリスッ!」
「はい?」
「貴女がマルフォイに、口外しないように説得するのよ」
「ええっ!私があ!?」
ハーマイオニーの提案にクリスは大声を上げた。ラベンダーのブレスレットの時といい、今回といい、こういう時ばっかりドラコとの仲を利用させようとするのはちょっと卑怯だとクリスは思った。
「クリス、ハグリッドのためなのよ。ハグリッドがクビになったら貴女も嫌でしょう?」
「そんな事言ったって無理だ。あいつとは喧嘩したままだし……それにもう遅いんじゃないのか、あいつそろそろ城に着く頃だよ。それよりドラゴンを森に放した方が早いって」
「駄目だ、それだけは駄目だ!!」
ハグリッドは涙で滲んだ瞳を向け、クリスに必死になって懇願した。いや、ハグリッドだけではない。ハーマイオニーも、ロンも、ハリーも一緒になってクリスを見つめていた。
「頼む、クリス!俺の一生のお願いだ!!」
「いま頼れるのは貴女しかいないのよ」
「減るもんじゃないし、やるだけやってみれば良いじゃないか」
「そうだよ。人助け、人助け」
「でもっ!」
「「「「お願い、クリス!」」」」
期待に満ちた8つの瞳を裏切れるほど、クリスは豪胆の持ち主ではなかった。結局ラベンダーの時と同様、その場の雰囲気に押し切られる形で、クリスはドラコの説得に合意してしまった。