第28章 【過ぎ去りし平穏の日々】
クリスの独りよがりな演説は、ハーマイオニーによってバッサリ切られた。しかも言い返したくても相手が学年1位のハーマイオニーでは何を言っても言い訳にしかならない。
クリスは無言で立ち上がった。
「どこに行くの?」
「息抜きだ、息抜き。ロンの言うとおり、根を詰めて勉強ばっかりしてると頭が馬鹿になる」
「今の台詞にもの凄い矛盾がある事、気づいてる?」
ハーマイオニーの言葉に返事もせず、クリスは本棚の迷路へと消えていった。ここ最近は趣味の読書もできなかったので、余計にストレスが溜まっている。何か久しぶりに面白い本はないかとクリスは本棚を物色しはじめた。
ここには実家と違い、マグル関係の本も沢山あるので退屈する事はなく、クリスは目を惹く題名をどんどん手にとり、気の赴くまま奥へ奥へと通路を進んでいった。
するとふと「緊急!救急!応急処置!~マグル式~」というタイトルが目に入り、クリスは手にとってページをめくってみた。心肺蘇生の方法から骨折、また出血や熱射病の対処の仕方が図解付きで書いてあり、頭部外傷についても載っている。クリスの頭に自然とクィディッチの試合の日の事が浮かんできた。もう二度とあんな事ないと思いたいが、万が一に備え少しは憶えておいた方がいいかもしれない。それでなくても怪我の治療に関する魔法は難しい。
クリスは本を手に取ると、カウンターに向かった。しかしその途中で、薄暗い本棚の通路の奥に見慣れない巨体を目にし、思わず足を止めた。
「ハグリッド!?」
「うっ――よ、よう!クリスじゃねえか。もう怪我はいいのか?」
「お陰さまでね。それにしても珍しいな、こんな所で会うなんて。何か調べもの?」
「ん?いや、ただちぃっと見てただけだ」
「ふーん、見てただけ……ねぇ」
クリスが声をかけると、ハグリッドは慌てて読んでいた本を棚に戻した。それはまるで何か見られてはいけないものを必死に隠そうとしているように。クリスが本棚を覗き込もうとすると、ハグリッドがその体で視界をさえぎるばかりか、クリスを通路の入り口まで押し戻した。
絶対、変だ――そもそも、もう4月だっていうのにモールスキンのオーバーを着ていること事態が怪しい。それにしょっちゅう背中をもぞもぞさせている。