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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第28章 【過ぎ去りし平穏の日々】


 すでにハーマイオニーはクリス達の声の届かぬところにいってしまっているようだった。時折パーティの歓声に混じって「計画が…」とか「教科ごとの範囲が…」等の声がうわ言のように彼女の口から漏れるだけで、意識は完全に自分の世界に入っている。ほんの数秒前までスネイプの企てについて一致団結していたのに、なんだかそれもずいぶん昔の事ように思えてきてしまった。

「こんな事をしてる場合じゃないわ、今すぐ部屋に戻って予定表を作らなくちゃ!みんな、この話の続きはまた今度にしましょう」
「こんな事……って。ハーマイオニー、これは一大事なんだぞ」
「私には、スネイプよりもクィレルよりも賢者の石よりも、試験が一番大切なのよ」

 至極真面目な顔でそれだけ言い残すと、ハーマイオニーは女子寮への階段を昇っていってしまった。その場に取り残されたクリス達は声をかけるどころか、彼女が去った場所を呆然と見つめるばかりで、暫く経ってからやっと我に帰ったハリーが小さく呟いた。

「僕が言うのもなんだけどさ、ハーマイオニーもかなり危機感ないよね」
「でも少なくとも、あの目は本気だったぜ」

 ロンは一度ハーマイオニーが座っていた椅子へと視線を移すと、再び彼女が出て行った階段へ目をやった。

「まあ、これだけは言えるな……あいつは世界が滅ぶその時まで、試験勉強してるに違いない」

 命よりも試験が大切と言う彼女を止める術を、この3人が持ち合わせているはずがない。机に向かって猛烈に羽ペンを走らせるハーマイオニーの姿を想像しながら、ハリー、ロン、クリスの3人は揃ってため息を吐くのだった。

* * *

 と、この時はハーマイオニーのハーマイオニーらしさに頭を悩ませる3人だったが、ある意味彼女の判断は正しいと言わざるを得なかった。スネイプの企みなんて知らない一般の先生達は、これぞ学生の本分とばかりに、期末試験に向けて一気に宿題の量を増やしてくるようになり、ハーマイオニーでなくともみんな机に向かう時間が圧倒的に増え、クリスも賢者の石どころではなくなってしまった。

 そんな忙しい生活の中でただ1つ、嬉しい誤算もあった。それはあのクィレルが、クリス達が思っていた以上の粘りを見せた事だった。
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