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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第3章 【炎の未来(さき)へ】


「決してこの痣の事は誰にも気取らぬよう、常に心しておくのだぞ。分かっているな」

 この2人以外には決して聞こえないように囁く父の声は、ともすると薪を燃す暖炉の火の音にかき消されるかと思うほど小さかったが、一言一句もらすことなくクリスに届いた。
 物心ついたときからあるこの左手首のあざは、日によって濃くなったり薄くなったりするように見える。

 今よりうんと小さい頃、不思議に思ってあざの事を聞いた時、父は今と同じように膝をつきクリスの目をしっかりと見つめながら、こう囁いたのだ――

「これは私とお前を繋ぐ印だ、だけど決して誰にも見せてはいけない。もしこの痣の事が誰かに知られてしまったら、私とお前は離れ離れにされてしまう……」

 いつもの石膏のように整った無愛想な顔ではなく、その時ばかりは世に言う「父親」の顔でそう言った。だからクリスも心の底から父の言葉を信じた。

「はい。クリス、父さまとはなれるのはイヤ、だからこの事は誰にも言わないわ。だから父さまもこのことは誰にも言わないで。クリスと父さま、2人だけのヒミツよ」
「……好い子だ」

 素直にそう答えれば、その後は必ず優しく頭を撫でてくれた。そうやって幼い頃から繰り返されてきたやり取りは、幼いクリスの心に深く染み付き、やがてその「2人だけの秘密」というのが禁じられた果実のように甘く、そして本当に恐ろしい物に思えるようになった。

 幼児期の思い込みと言うのはすさまじく、クリスは約束どおり今まで誰にもあざのことを話すことなく過ごしてきた。もちろんドラコにも教えていないし、あざの事を深く調べようともしなかった。

 しかし家柄上、このあざがあまり良いモノでは無いということは、クリスは心のどこかで薄々感づいていた。感づいていながら、ついつい仲の良い親子ごっこを演じてしまうのだった。

「ええ、分かっております。父様」
「……好い子だ」
 
 だがそれを表情に出すことなく、そして深く追求する事も無くそう答えると、クラウスはやはり優しい手つきでクリスの頭を撫でた。
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