第3章 【炎の未来(さき)へ】
「顔だけは、こんなに似ているんだけどな」
自分と同じ顔に話しかけると、相手も同じ言葉を返してきた。それは当たり前の事だ、鏡に映った自分に話しかけたのだから。
それと同じで、父と上手くいかないのも当たり前なのかもしれない。似てはいるがまったく違う人間なのだから、鏡のように上手くいきっこない。
「……馬鹿だな、私も」
そう独りごちると、クリスはトランクケースを持って部屋を出た。
大広間では、すでに暖炉に火がたかれ、出発の準備は整っている。しかし暖炉の傍には父のクラウスまでクリスを待っていた。はっきり言って気まずい。しかもこういうときに限って、頼みの綱のチャンドラーはまだ弁当の準備をして広間には来ていない。
「お前が早起きしてくれて助かった。折角だ、めでたい旅立ちの日を見送ってやりたいと思っていたのだ」
暖炉に照らされたクラウスの横顔は、言葉とは裏腹にどこか寂しそうだった。
どんな時でも仕事一筋で、クリスマスくらいしか帰ってこない父のことだから、きっと娘の見送りなどさほど気にしていないだろうとふんでいたのだが……こんな顔をされると、先ほどそっけない態度をとってしまった事を少し後悔してしまう。
クリスは伏せていた目を一度閉じると、あらためて父の顔を仰ぎ見た。
「ホグワーツでの7年間というのは後々の己の人生に深く関わってくる……それをゆめゆめ忘れるな。7年と言うのは長いようで短い、悔いの無きようにな」
「はい」
「それと……」
クリスの左手をそ…っと取ると、袖に隠された手首をまるで壊れ物を扱うかのように丁寧に自分の手で覆った。