第3章 【炎の未来(さき)へ】
丁度話しも終わったところで、チャンドラーが弁当の包みを持って大広間に入ってきた。全ての仕度を終え、暖炉に煙突飛行粉を一つかみふりまくと炎は不思議なエメラルドグリーンに輝き、クリスはしばしの間その炎をじっと見つめた。
この炎をくぐればもう、暫くはこの家に帰ってくる事はない。クリスは一呼吸おくと、改めて父としもべ妖精の方を振り返った。
「それでは父様、チャンドラー。行って参ります」
「ああ。くれぐれも先ほど話した事を忘れるな」
「お嬢さま、ホグワーツは寮生活ですから、ルームメイトに粗相の無い様。もし何かご不足が御座いましたらなんなりとお申し付け下さい、カラス達に届けさせますから。それと屁理屈をこねて先生方を困らせないようくれぐれも――」
「分かってるよ。まったく最後の最後まで説教とはお前もご苦労な奴だ」
口やかましいしもべ妖精のお陰で涙の別れとは程遠く、クリスは半ばうんざりしたように肩をおろした。
エメラルドグリーンに燃え盛る炎は、まるで揺らめきながらクリスを未知の未来へと誘っているように思えた。クリスは母の形見である召喚の杖をぐっと握り締めると、力強くその一歩を踏み出し、やがて炎の渦に消えていった。
――深く暗い森の奥深く、密かに蠢きだす数奇な運命。
――この炎の未来(さき)に何があるのか、まだ彼女は何も知らない。