第25章 【覚悟完了!】
隣にいたロンはすぐに返事をしてくれたが、生憎クリスの耳には入っていなかった。今のクリスにはハリーのことしか頭にない。
クリスは向かいの席に座ると、明け方に考えていた台詞を頭の中で何度も復唱した。ハーマイオニーに言われたとおり、誠心誠意気持ちを込めて謝れば、きっとハリーに届く、そう信じて。
「聞いてほしいんだ、ハリー。私――」
「ロン、悪いけどそこのケチャップとってくれる?」
まるでクリスを無視するように、ハリーが彼女の言葉を遮った。てっきりここでクリスが謝って、ハリーが許して、それで丸く収まると思っていたロンもハーマイオニーも、これには目を丸くするしかなかった。
「え?……これ?」
「あっ…あの、ハリー――」
「うん、そう。ありがとう」
ロンからケチャップの瓶を受け取ると、ハリーはすでにケチャップのかかったスクランブルエッグに、さらにケチャップをかけた。一方のクリスは、一度ならず二度までもシカトされ、気分はあたかも空気の漏れた風船のようにしぼんでいった。
食事が終わると、ハリーは「まだ宿題が残ってるから」と言って一足早く談話室へと引き上げてしまった。それが口実である事は明らかだったが、それを責める権利なんてあるはずがなかった。
「こうなったら、時間に任せるしかないかもね」
「でも意外だったわ。ハリーがあんな態度をとるなんて」
「それだけ私が嫌いなんだ」
自業自得とは言え、流石のクリスもこれには堪えた。その時、落ち込むクリスの背後から、聞き覚えのある嫌みったらしい声が降って湧いた。
「なるほど、それはいい事を聞いたよ」
一体どこから嗅ぎ付けてきたのだろう。ドラコ・マルフォイはあざ笑うかのように目を細め、したり顔で話しながらクリスの顔を覗き込んだ。
「いいじゃないかクリス、これを機にグリフィンドールの連中とはキッパリ手を切るべきだよ。元々こいつらと僕らのような人間とでは、住む世界が違うんだから」
「なんだって……!」
ロンだけでなく、それを聞いたグリフィンドール生全員がドラコを睨んだが、ドラコは全く気に留める様子もなくクリスの肩に手を乗せた。しかしクリスは一瞥もくれることなく、まるで五月蝿い小蝿を追い払うかのように手を叩き落した。