第3章 【炎の未来(さき)へ】
長い引きこもり生活を終えて数日後の9月1日。ついに迎えたホグワーツ入学式当日、クリスは朝から超・不機嫌で部屋から出てきた。というのも、低血圧で朝が弱く、いつもは昼ごろにチャンドラーが起こしに来るまで寝ている彼女が、今日に限って日の出と共に起き仕度を始めたためだ。
身支度を終え6時過ぎにクリスが食堂に下りてくると、主人の朝ごはんの用意をしていたチャンドラーは、驚きのあまりもう少しで皿を滑り落とすところだった。
「お、お早うございますお嬢さま。今日は随分とお早いのですねえ……」
しかめっ面をしながら挨拶代わりに「ああ」とだけ答えると、クリスはさっさと食卓に着いた。仕事のため毎朝早い父も、流石にまだ起きてきていない。まだ覚醒しきっていない頭をテーブルに持たせかけながら、クリスは少し自分の計画を後悔した。
「お嬢さま。今日のご予定ですが、10時ごろドラコ様がお迎えに来てくださるそうですので、それまで――」
「それなら先にいったと伝えておけ。私は食事が終わったらすぐに出発する」
これぞクリスの計画だった。実はドラコと顔をつき合わせたくないクリスは、ドラコが今日迎えに来ることを予測して、わざわざ早起きをしたのだ。例え自分だけでも婚約に反対しているという意思を見せなければ、あれよあれよと言う間に本当に結婚させられてしまう。父もルシウスも、そういう人間だ。
そして苦労の甲斐あってクリスの予想は見事的中し、おかげで苦手な早起きも無駄にならずにすんだ。まあ少々こちらも辛いものはあるが、その分は出発時間まで列車の中で寝ていればいい。
「それは……お嬢さまのお気持ちも分かりますが、それではドラコ様に失礼になりますぞ」
「失礼で結構だ」
「そんな冷たいことをおっしゃらずに……。これからはお二人仲良くして――」
「仲良くしたくないから早く行くんだ!!」
怒鳴ってテーブルを強く叩いたのと同時に、食堂の扉が静かに開かれ、クリスは思わず身じろいだ。入ってきたのはもちろんこの屋敷の残りの一人、父・クラウスだ。水を打ったように食堂がシンと静まり返り、気まずい空気が流れる。そんな中で一番初めに口を開いたのはクラウスだった。
「どうした、朝から騒がしい。……ん?クリス、今朝は随分早いな」
「…………」