第3章 【炎の未来(さき)へ】
――人里離れた暗い森の奥深く、夜のしじまに紛れ、闇よりもなお禍々しく黒い魂が動き出した。
「ご…ごしゅっ、ご主人様、どうか……どうかお静まり、くださいぃ」
汚れた地に伏し、獣のような四つんばいの格好で喘ぐ男は苦しそうに懇願した。頭が割れるような痛みがとめどなく襲ってきて、堪えきれず吐いてしまいそうなほどの苦しさだ。涙と脂汗をだらだらと流しながら、男は再び「ご主人様」に訴えた。
「お気持ちは分かりますが、どうか……このままでは、私の体が耐えられません」
「分かる!?貴様にこの儂の気持ちが理解できるのか!!?」
まるで落雷のような怒号が頭のすぐ後ろから響き、男は身を縮こませて震え上がった。
「闇の皇帝と称えられたこの儂が!あと一歩で世界を手に入れたこの儂が!たかが赤ん坊にこのような情けない身に堕とされた怒りと屈辱が、貴様に分かると言うのか!!?」
「ひいいぃぃ……も、申し訳御座いません。ですがもう暫くの辛抱です、ホグワーツに行けば必ずやご主人様は昔のお力を取り戻せます」
「勿論だともクィレル、でなければお前の体を借りている意味が無い」
ゼイゼイと息を切る男の後頭部が、まるで蛇がうごめく様に不気味なその姿を震わせた。クィレルと呼ばれた男の後頭部に潜むもう一つの顔。それが禍々しく黒い魂の正体だった。
身体と力を失い、すでに生き物とも呼べなくなった魂の残りカスのような存在を維持するために、クィレルに取り憑く形でなんとかこの世に留まっているのである。
「不老不死の妙薬となる賢者の石、儂をこのような姿にした憎きハリー・ポッター、そして……そして待ちに待った精霊の力……これら全てが揃えば、儂は今一度世界を支配する事ができるのだ!――くくく、ははは……はぁーーっはっはっはっは!!!」
狂ったような笑い声が闇夜の静寂を破った。体を共有しているクィレルにとって、この黒い魂の感情が高ぶれば高ぶるほど、その怒りや苦しみが己に伝わってくる。それは想像を絶するほどの苦痛だ。ついに苦しみに耐え切れず薄れゆく意識の中で、クィレルは主人に称賛を唱えた。
「穢れた血には裁きを……我が主、ヴォルデモート様には栄光あれ……」