第24章 【かすでんな はみぞの のみき】
「ロンの言うとおりよ。マルフォイに立ち向かわなきゃ、あなたずっとこのまま痛い目に合わされつづけるのよ。それでもいいの?」
「ハーマイオニーも僕が弱虫だって言いたいんだろう。知ってるよ、マルフォイにもそう言われたんだから。僕は毛虫みたいにのろまで弱虫で、勇気あるグリフィンドールに相応しくないって」
とうとうネビルの瞳から、涙がポロリと流れ落ちた。クリスはいても立ってもいられず、談話室を飛び出そうと腕を引っ張ったが、ロンの手はきっちりクリスを掴んだまま放さなかった。
「ロン、放せっ!」
「だからそれじゃあ意味がないんだって!少し落ち着けよ、熱くなると周りが見えなくなるのは君の悪い癖だぜ。さっきの事、よく思い出してみろよ」
「さっきの事?私が何をしたって言うんだ!」
「ほら見ろ、頭に血が上って自分が何をやったのかも分かってない。少しは客観的になれよ、君がやろうとしているのは自己満足で友達の為じゃない。そんなんだから友達だって……ハリーだって平気で傷つけるんだ」
その一言に、クリスは心臓を鷲づかみにされたような気分がした。
確かにロンの言うとおり、頭に血が上ると怒りで何も見えなくなってしまう。ついさっきだって、自分はハリーの気持ちを少しでも考えようとしたか。いや、ただ自分の意見をぶつけただけだ。
恐る恐るハリーの方に視線を送ると、ハリーは苦々しい表情でクリスから顔をそむけた。怒りとも悲しみとも取れるその横顔をみて、クリスは自分が取り返しのつかない事をしてしまったと気づいた。
傷つけてしまった。大切な友達を、自分の心無い言葉で――。ゆっくりロンが手を放すと、力の抜けきったクリスの腕がだらりと垂れた。
「ねぇクリス、私達だって貴女の気持ちが分からない訳じゃないのよ。でも今貴女が飛び出していったってなんにもならないのよ」
「けどっ……」
苦虫を噛み潰すように、クリスが呟いた。しかし、次の言葉が出てこない。
静まり返った室内に、ネビルの微かな嗚咽だけが響く。影で笑っていたやつらも、今では口を閉ざして成り行きを見守っている。クリスはグッと奥歯を噛み締めた。