第23章 【welcome home!】
よほど納得がいかないのか、クラウスはそのあとも口元に手を当て、信じられないといった様子で顔をしかめている。その様子を見て、クリスは絶対に父とスネイプが裏で繋がってはいないと直感した。朴念仁の父にこんな演技ができぬ事くらい、クリスだって十分知っている。
それにしても何故こうも、と考えたとき、屋敷の方から甲高いキンキン声が聞こえてきた。見るとチャンドラーが雪の中を半ば埋もれるようにしてこちらに歩いてきている。
「どうしたんだチャンドラー」
「お嬢さま、折角のところ大変申し訳ありません。実は先程、ドラコ様がお見えになられまして」
「ドラコが?」
「成る程……行ってきなさいクリス、墓参りはもう終わりだ」
何が「成る程」なのかクリスには皆目検討も付かなかったが、とにかく会ってみた方が手っ取り早い。最後に母の墓に向かって軽く礼をした後、屋敷に戻ろうと踵を返したクリスの背中に向かって、不意にクラウスが問い掛けてきた。
父がその事を口にするのは、約半年振りのことだった。
「クリス……まだ婚約に、納得はしていないのか?」
父の黒い瞳が試すように、そして全てを見透かすようにクリスを見つめる。思わずクリスはたじろいだが、視線をそらす事はしなかった。逆に父の目をしっかりと見据えて、クリスは力強くうなずいた。
「――ええ」
そして父の返事を待たず、屋敷に向かって雪の中を進んでいった。徐々に小さくなるクリスの背中を見つめ、クラウスは再びレイチェルの墓の前に膝を着いた。
「あの子は強いな、私とは比べ物にならぬほどに。……君は、こんな私を恨んでいるか?」
* * *
応接間では、ドラコは暖炉に一番近い肘掛け椅子に足を組んで座っていた。考え事をするように頬杖をつき、クリスが入ってきた事に気づくとちょっと顔を上げて視線を向けた。
「どうしたんだ、ドラコ?」
クリスがいつも通り話しかけると、ドラコはなにやら安心したように息を吐いた。
「ため息なんて吐いて……何があったんだ?」
「違うさ、僕じゃなくて君が昨日――いや、やっぱりいい。何でもない」
「途中で止めるなよな、余計に気になる」