第23章 【welcome home!】
「何をしていたんだ?」
「え~っとその、別に。単なる暇つぶしです」
「そうか……ならいい。待たせて済まなかった。外は寒いから、上着を着なさい」
クラウスの口調にはどこも不信な所がなかったので、どうやら盗み聞きはされていないらしい。クリスは安心して、父の後について部屋を後にした。
言われたとおり毛皮のケープを着て庭に出ると、冷たい北風が頬をかすめクリスは首をすぼめた。シンシンと降る雪があたり一面を真っ白に染め、入学前に見た色とりどりに咲き誇る花はその影すらない。今ここで咲いている花といえば、父の手にある大きな花束だけだ。
「ずいぶんと積もってしまったな」
その言葉がクリスに向けられたのか、それとも亡き妻に向けられたのかは分からない。クラウスは優しい声でそう言うと、庭園の隅にひっそりと立てられた墓石の雪を掃った。そして墓前に花束を供えると、跪いて目を閉じた。
この石の下に、母・レイチェルの遺体がない事はクリスも知っている。死後、本人の希望で海に散骨されたらしい。しかし、何も形として残っていないのは寂しすぎるといって、クラウスがここに石碑を建てたのだ。
「お久しぶりです母様。今日は話したい事が沢山あるんですよ」
クリスも父にならい墓前に膝をつくと、手を合わせて語りかけた。例え仮の墓だったとしても、やはり形があるほうが気持ちを込めやすい。わざと声に出すのは、隣にいる父に聞かせる為でもある。
「実は私、グリフィンドールに選ばれたんです。母様と同じ、グリフィンドールです。お友達も沢山出来ました。1人はハーマイオニーっていう女の子です。マグル生まれだけど、とても頭の良い子なんですよ。もう1人はロンっていう男の子で、友達思いで明るい子で……そしてあとの1人は、あのハリー・ポッターなんです!」
昨夜のパーティの時とは打って変わって、友人を紹介するクリスの声は喜びに満ちていた。
ハリーの名前を出した事に、クリスは横目で父の顔をうかがった。しかし、クラウスは相変わらず目を瞑っているだけだった。クリスは母の墓前に視線を戻し、引き続き語りかけた。