第22章 【屈辱のクリスマス・パーティ】
「クリスマスにこのドレスは失敗かな……これじゃあまるでサンタクロースだ」
「こんなに可愛らしいサンタクロースなら、私は今夜だけでなくいつでも歓迎するわ」
鏡越しに自分の姿を見ながら、クリスは不満げに唇を尖らせる。面倒だからとチャンドラーに任せたのが間違いだった。元々過度な装飾が付いた服も好きではないが、今夜はきらびやかに着飾った人が大勢集まるパーティであって仮装パーティではない。
拗ねるクリスを、ナルシッサは笑って慰めた。
「さあ、いつまでもそんな顔をしているものじゃありませんよ。それにそのドレス、本当に貴女に似合っているわ。後はドレスに合う髪飾りをつければ、誰が見ても立派なレディよ」
「おば様がそう仰るなら、信じます」
「いい子ね、クリス。……貴女のような娘がいてくれたら、私はどんなに嬉しいか」
それを聞いて、クリスの表情がふくれっ面からやや緊張した顔に変わった。ナルシッサは相変わらず穏やかに微笑みながらクリスの髪を梳いていたが、この数日間このことを言いたくて仕方なかったという雰囲気が痛いほど伝わってくる。
「ドラコから聞いたけど、婚約を渋っているそうね。理由を聞いても宜しい?」
「いえ、ただ、その……まだ結婚について考えたくないんです。まだ11ですし」
「でも女性はいつか結婚するものですよ。それともドラコが嫌いかしら?」
「いいえ、嫌いじゃあないんですけど……」
だから困るんだと、声には出さずに呟いた。
ただ単に嫌いなだけなら話は簡単に終わっただろう。だが仮にもドラコは11年以上を一緒に過ごした相手だ。嫌いではないが、好きにはなれない。というよりドラコとは兄妹のようなものだと思っている。だからクリスにとってこの婚約は、ある日突然「純血を守るため、お前は兄さんと結婚しなさい」と言われたようなものだ。それに従える方がどうかしている。
しかしそう思っているのはクリスだけのようだった。
「それなら悩む事はないわ。あなた達は兄弟のように育ってきて気心も知れているし、これ以上の良縁はなくてよ。私はルシウスとの婚約話を聞かされたとき、お互いよく知らなかったから初めは凄く戸惑ったわ。けれど、今では心から良かったと思っているの。ドラコという宝物にも恵まれて、女としてこれ以上の幸せはないわ」