第22章 【屈辱のクリスマス・パーティ】
もちろん忙しいのは使用人だけではない。クリスも食事をとると、さっそくお風呂に入らされ、体の隅々まで磨かされた。それが終わると、いよいよドレスアップに取り掛かるのだが――コルセットを目の前に、クリスは深くため息をついた。
「どうしても着るのか?コレを……」
「もちろんで御座います」
大昔のように凶悪な作りではないが、普段のゆったりとした服装に慣れた現代人にこれは苦しくて仕方ない。おまけにドレスの下にドロワーズやパニエやペティコートも着込まなきゃいけないので、着替えが大変面倒臭い。しかも、仕度はそれだけでは終わらない。
「失礼するわ、もう準備は宜しくて?」
丁度下着の着付けが終わった頃を見計らい、ナルシッサが入ってきた。ここから先は彼女の出番だ。クリスがクリスマス・パーティでドレスを着る際の化粧やヘアメイクは、毎年ナルシッサがやっている。これだけは、他の誰にも任せたことがなかった。
「まあ、可愛い。今年は真紅のドレスなのね。靴もそろいの紅で、貴女の瞳と同じ色だわ……そうなるとアイシャドウは――」
女と言う生き物は、幾つになってもお人形遊びが好きらしい。少女のように頬を染め、ナルシッサは掛けてある真紅のドレスを元に想像を膨らませると、早速クリスを鏡の前に座らせて仕度を始めた。
独特の艶と端整な顔立ちを兼ね備えたクリスは、まさに他では絶対に手に入らない至高の“お人形”だ。少しずつ化粧がのせられていく度、ナルシッサはその出来栄えと美しさにため息をついた。
「少し見ない間に、顔つきが大人っぽくなったようね。お化粧をすると良く分かるわ、去年よりもずっと綺麗になっていてよ」
「おば様の腕が良いからですよ」
普段のクリスなら、こんな風にお人形役にされるのを嫌がっただろう。しかし母親という存在に飢えたクリスにとって、例え他人の親でもこうやって触れ合える時間というのは掛け替えのない時間だ。ナルシッサが喜んでくれるなら、少しの間お人形になるくらいわけない。この時ばかりはクリスもスネイプや父親達の疑惑を忘れ、久しぶりに楽しい時を過ごした。
化粧が終わると、ドレスに袖を通す。真っ赤なベルベット地のドレスには腰と胸元に大きな白いリボンが付いているだけで、他に飾りらしい飾りは一切ない。