第19章 【クィディッチ】
クィレル不気味な独り言は、こちらに走りよってくるハーマイオニーの声にかき消された。上手くいったのか、髪を振り乱し一直線に駆けてくるハーマイオニーの表情に不安の影はない。それを見て、思わずクリスも息を付いた。
「戻るわよ!それじゃあクィレル先生、失礼します!」
返事も待たず、ハーマイオニーはクリスを立たせるとそのまま手をひっぱってロンの待つスタンド席まで戻った。スタンド席から見たハリーは地面目がけて矢のように疾走している。まさかまだ呪が解けていないかと思いクリスは息を呑んだ。
だがハリーは地表スレスレのところで箒を水平に引き戻すと、何を考えているのかサーカスの綱渡りのように箒の上に両足で立ち上がり、そして空中にきらめく金色のスニッチ目がけて、力強く箒を蹴った。
「試合、終了――っっ!!やりました、グリフィンドールの最年少シーカーが見事スニッチを掴みましたぁ!!」
勢い余ってグラウンドの上に転がったハリーは、小さく咳き込むと口からスニッチを吐き出した。そしてスニッチを掴んだ手を高々とあげると、リーの実況と共にグリフィンドール席から爆発的な歓声が上がった。
ロンはディーンと一緒に狂ったように旗を振り回し、ハーマイオニーはキャーキャー悲鳴を上げながらクリスに抱きついた。そしてハリーは、ピッチの真ん中でチームの皆から胴上げをされている。
グリフィンドールが勝ったのだ。突然のアクシデントにも負けず、ハリー・ポッターは見事スニッチを掴んだのだ。
(勝ったんだ……ハリーがスニッチを掴んだんだ――ハリーが……無事だったんだ)
クリスはそれを見て、へなへなとベンチにへたりこんだ。皆のように両手を上げて喜ぶ事は出来ないが、その顔はこれまでにないほど穏やかな顔で微笑んでいた。