第19章 【クィディッチ】
「貴女からも見える?」
「ああ。間違いない、犯人はスネイプだ。ハリーから目を離さず呪文を呟いてる」
「スネイプだって!?」
「シッ…騒ぐなロン、ほらあそこだ。……どうにかして、あいつを止めなきゃ」
言うが早いかクリスは人ごみの中に分け入ると、その後をハーマイオニーが追った。どんなに広く込み入ったスタンド席であっても、クリスの特別な方向感知能力は少しも霞む事はない。驚くべき速さで人ごみをすり抜け、あっという間に教職員用の席にたどり着いた。
その時周囲から一際大きな悲鳴が上がった。驚いて上空に目をやると、なんとハリーが箒からぶら下がって、今にも落ちそうだ。このままでは拙い、早くハリーを助けようと勢い良く走り出した矢先、短い悲鳴と共に身体に強い衝撃を受けて、クリスは床に倒れた。見ると、クィレル先生も同じく床に転がっている。
「――ハーマイオニーあっちだ、先に行って!……すみませんクィレル先生、急いでいたもので」
どうしてこんな邪魔なところに突っ立ってるんだと、クリスは心の中で舌打ちした。せめてハーマイオニーと一緒だったのが救いだった、ハリーの事は、彼女に任せれば大丈夫だろう。クリスは立ち上がると、クィレルに手を差し伸べた。クィレルは気が動転しているのか、空を見つめながら緩んだターバンを必死に手で押え、奥歯をカタカタ鳴らすだけで立ち上がる気配は無い。
「大丈夫ですか、先生?」
「……申し訳ありませんっ、私は…私はっ……!」
「謝るのは私の方です。お怪我はありませんね?」
立ち上がらせようとクィレルの手を掴んだ直後、クリスは思わずその手を勢い良く払い除けてしまった。
クリスは感じたのだ、あの時と――歓迎会やハロウィーンの時と――同じような底知れぬ恐怖の一片を。やはり時折クリスを襲うこの不安は、クィレルに関係があるらしい。
しかし、目の前のクィレルは怯えた犬のように情けなく震えるばかりで、とても恐怖の対象とは思えない。
「……またしても失態を……申し訳御座いません…申し訳御座いません我が――」
「クリスッ!!」