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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第2章 【大切な話し】


「……ううっ、母様、母様ぁ……かぁ…さ、ま――」

 いつの間にか、クリスは杖を抱いたまま眠りについた。翌朝、泣きすぎた所為かまぶたは腫れ、酷い頭痛がクリスを苦しませた。
 そればかりか体はだるいし、食欲もない、何もする気がおきない。憂鬱を抱えたまま、クリスは再びベッドに横たわると静かに目を閉じた。眠っている間は、何も考えずにすむ、そう思ったのだ。

 昼ごろ、いつまでたっても起きてこないクリスを心配したチャンドラーが様子を見に来てくれたが、クリスは頑として扉を開けようとしなかった。その次の日もその次の日も、クリスは決して部屋から出ることはなかった。ただベッドの上で、唯一の慰めとなる召喚の杖を抱きながら眠る日を送っていた。

 一方のドラコも婚約の話しを聞いたのか、何度か彼のミミズクが手紙を届けに来たが、それも使い魔のネサラによって追い返させた。またそんな日が何日も続き、ついには痺れを切らしたドラコ本人が部屋を尋ねに来たときもあったが、それでもクリスは扉を開けようともしなかった。

 何日も何日もチャンドラーが、やれ美味しいパイを焼いただの、やれホグワーツの制服が届いたから一度袖を通して欲しいだのと、クリスを何とか部屋から出そうと懸命に呼びかけてくれたが、父のクラウスは弁解どころか一度も様子を見にさえ来なかった。それが余計にクリスを頑なに部屋に閉じこもらせた。

 だがついにホグワーツ入学を間近に控えたある日、クリスは静かに部屋の扉を開けた。婚約のことを諦めたわけではないが、こうやって部屋に篭っていても仕方がないと気づいたのだ。

「おっ、お嬢さま!良うございました…えぇ、その……お加減の方は?」

1階の廊下で、雑巾がけをしていたチャンドラーと鉢合わせになった。嬉しそうに頬をほころばせ、クリスを余計に刺激しないように言葉を選んだのだろうが、クリスは返事をすることもなく無表情のまま一瞥をなげると、まるで幽霊のようにスッ…とチャンドラーの横を通り過ぎた。なんと言われようと、まだ誰かと話しをする気にはなれなかった。
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