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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第2章 【大切な話し】


 グレイン家は一言で言えば落ちぶれ貴族。自慢できるものなんてクリスに言わせれば畑の肥やしにもならない土の下に眠る先祖代々の遺体と、そのご先祖様の残してくれたこの屋敷だけ。

 方やマルフォイ家は未だ繁栄の最中にある名家で、魔法界の中でも有数の権力者である。そしてそのマルフォイ家の最大の特徴とは、グレイン家と同じく何よりも血統を尊ぶ、完璧なる「純血主義」だということだ。

 何よりも純血を重んじるマルフォイ家にとって、金でスリザリンの血が買えるのならお安いものなのだろう。しかもそれが自分の親友の娘で、召喚師の血族と言う類稀なる血統まで持っているのだ。息子の結婚相手として、これ以上の物件はない。

 またグレイン家にとっても、マルフォイ家という名家と婚姻を結ぶことで、先祖の顔に泥を塗ることなくこの代々受け継がれてきた土地を守れるのなら、異存はないだろう。
 だがそんな大人の事情で勝手に決められた婚約話なぞに素直に了承できるほど、クリスは大人でも、ましてや聞き分けのいい子供でもなかった。

「クリス、待ちなさい!まだ話しは――」
「私はこれ以上お話しすることなどありませんっ!!」

 父の制止も聞かず、クリスは部屋を飛び出すと猛烈な勢いで階段を駆け上がり自分の部屋に飛び込むと、鍵をかけ勢いよくベッドに倒れこんだ。

 激しい怒りと理不尽さ、そして悲しみで体がバラバラに壊れてしまいそうだった。まるで何かにすがるように先ほど継承したばかりの召喚の杖を抱きしめると、相変わらずほのかなぬくもりを感じ、それが余計にクリスの感情を高ぶらせ涙がこみ上げてきた。

「――っく、母様、母様……うぅ…っく。助けて、母様……」

 唇から漏れ出る嗚咽を必死にかみ殺しながら、何度も何度も母を呼んだ。

 あんまりな話しだ。家を維持できなくなったからといって、11歳になったばかりの娘に親が勝手に決めた家に嫁げなんて。どうして自分の人生なのに、親に左右されなければならないのか。好きでこの家に生まれたわけでもないのに。
 自分は母を愛していたからこそ結婚をしたはずなのに、娘には親の決めた相手と結婚しろだなんて、いくらなんでも勝手すぎる。
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