第2章 【大切な話し】
ついに箒を壊したことがばれたのか、それとも煙突飛行の件か、それともマグルびいきについてか、それとも……。クラウスの見透かすような眼差しから、クリスは必死に話の内容を探ろうとした。だが、やっと父から発せられた言葉は、そのクリスの予想をはるかに超えていた。
「今まで黙っていたが、お前には将来結婚すべき許婚がいる。――相手はお前もよく知っているだろう、マルフォイ家嫡男、ドラコ・マルフォイだ」
「……っは?」
寝耳に水――とは、正にこのことだろう。あまりに突然の話しに、クリスは口を開けたまま暫く呆然としていた。
結婚?誰が?誰と?そもそも許婚とは一体どういう意味だったか?そんな名前の食べ物があっただろうか……クリス頭の中はパニックの境地に陥り、一瞬ここがどこなのか自分が誰なのかもわからなくなった。
しきりに目をしばたきながら、必死に頭の中を整理しようとするが、まったく処理能力が追いついていかない。父がまだ何か言っているようだが、それすらも耳に入ってこない。
ただひたすらに鈍くなった頭で考えに考え抜いた結果、やっとある結論に達した。
「――が、卒業までにまだ7年もある。その間にお前の考えも……」
「嫌です」
少女の強い意思を持った一声が、クラウスの言葉を遮った。
クリスはこれ以上父の話しを聞いてなどいられなかった。怒りで噛み締める歯の間からその一言をつむぎだすと、クリスは烈火のごとく真っ赤な瞳で父親の顔を真っ直ぐ睨みつけた。
「嫌です、嫌です、嫌です!絶対に嫌です!!父様がなんて言おうと私は断固としてこの婚約を拒否します!」
「しかし、クリス!」
「私は、道具ではありませんっ!」
マルフォイ家とグレイン家は先代から付き合いがあり、現当主のルシウス・マルフォイと、父クラウス・グレインは学生時代もそれ以降も親しく付き合いを続けてきていた。
当然その子供であるクリスとドラコも物心がつく前から家族ぐるみで交流があり、ドラコはクリスの唯一幼馴染みと呼べる存在である。筒井筒の仲、と言えば聞こえはいいかもしれないが、これが明らかな政略結婚であることは、たった11歳の子供でも少し考えれば分かることだった。