第17章 【祭りの後で】
一旦そこで言葉を切ると、グレンジャーは続きを言い淀んだ。それもそのはず、ためらいがちに彼女が告げた言葉は、この1ヶ月間、癌のように彼女達を蝕み、苦しめ続けた鬱情の根源だった。
「私――“あの時”凄く貴女を怒らせてしまったのに……もう、一生許してもらえないと思ったわ」
そう言ってうな垂れるグレンジャーの姿を見れば、嫌でも1ヶ月前の図書館での出来事が鮮明によみがえる。なんて居心地が悪いんだろう。出来る事なら今すぐ部屋から飛び出して、ハリー達と一緒にパーティーに混じって何もかもを忘れたい。
しかしドラコの言葉を借りるなら、それは逃げ出す事になる。この期に及んでそんなことできるはずが無い。
クリスはグレンジャーの座るベッドの反対側に腰掛けると、背中合わせで話しかけた。
「確かに私はお前が嫌いだ、顔を見るだけでウンザリする。偉そうな喋り方も気に食わないし、他人事に首を突っ込みすぎる性格も腹が立つ。知ったかぶりも、自分の正義感観を押し付けるのも我慢ならないな」
「……じゃあっ……じゃあやっぱり私なんて助けなければ良かったじゃない!」
「でもお前を助けた事は後悔してない。例えグレンジャーが100回トロールに襲われたとしても、100回とも助けに行くよ」
言った後で、これじゃあまるでプロポーズだなと自嘲した。だがおそらく本当にそうしてしまうだろうという確信が、心のどこかにあった。
「……どう…して……?」
「さあ、そこが私にも分からない。でも体が勝手に動くんだ……お人好しだからだな、きっと」
「それって、普通自分で言う?」
背中越しに、グレンジャーが小さく笑うのが聞こえた。それだけで、心に溜まる黒い霧が浄化されてゆく。それはグレンジャーも同じなのか、話す声と場の空気が少し明るくなった。
「ねぇ、もう1つ聞いてもいい?」
「今度はなんだ?」
「あなたの悩みって、いったい何なの?ほら、あの時言っていたじゃない。不安や背負ったものがどうの……って」
「ああ、あれか。あれはもう良いんだ」
クリスは笑いながら答えた。その事ならそれはほんの10数分前に解決したばかりだ。しかも、今話しをしているグレンジャー本人のおかげで。しかし仮にも今まで仲違い相手に「君のお蔭で解決した」なんて言うのも癪なので、それだけは本人に教える気はなかった。