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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第17章 【祭りの後で】


 トロールとの戦闘を思いかえし、クリスはポツリと呟いた。しかし不思議な事に、完璧ではない召喚術にクリスは妙な親近感を覚えた。
 神秘の力、稀有な能力、そういわれて崇められてきたが、本当は召喚術とは使い手次第、むしろ使い手自身と言っても過言ではない。術者が馬鹿なら術も馬鹿、術者が役立たずなら術も役立たずだ。それに気づいた時、クリスは思わす声を出して笑ってしまった。
 召喚術は母から受け継いだと同時に、“自分自身の能力”でもある。その事を今、頭ではなく心で理解した。

「これからも宜しく、相棒」

 その言葉が自然と口をついた。妙な事にあの日から、自分の中で“召喚術”というものが徐々に変化していっている。そう、あの日から――

「こんな所にいたのね」

 シャワー室から出ると、グレンジャーがベッドの上に腰掛けてクリスを待っていた。最初に召喚術が“母の形見”から“恐ろしい”に変化したのは、彼女に八つ当たりをした時だ。あれ以来、クリスはもう1度召喚術というものを見つめ直すこととなった。

「探したわ……談話室にいないんだもの」
「トイレでトロールと格闘したんだ。臭くて食事どころじゃないだろ」
「そう、よね……」
「それで用件はなんだ?まさか用もなく私を探していた訳じゃないだろう?」

 グレンジャーにいつもの覇気がないのは、トロールに襲われた恐怖をまだ引きずっている所為ではないだろう。俯いたまま時折クリスを盗み見ては、直ぐに目をそらしてしまう。沈黙が重く圧し掛かり、暗い雰囲気に押しつぶされそうになりながらも、クリスは何とかグレンジャーが口を開くのを待った。

「――時、……して…れたの?」
「なんだって?」

 あまりにグレンジャーの声が小さすぎてよく聞き取れなかった。グレンジャーは覚悟を決めたように大きく息を吸込むと、一息で巻くし立てた。

「トロールに襲われたとき、貴女は自分の身を盾にして私を庇ってくれたわ。どうしてなの? 貴女は私の事が嫌いなんでしょう?“顔も見たくない”ってあの時そうハッキリ言ってたじゃない。危険を冒してまで私を助ける理由なんてどこにあったっていうの? 私――」
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