第2章 【大切な話し】
精霊を操れると言う事は、自然界のありとあらゆる物を操れると同じ事だ。やろうと思えば自ら天変地異を引き起こすことだって出来る。
とある本には「召喚術とは魔法とは異なる術であり、その力はまさに人の及ぶべき所に非ず」と記されており、確かに杖を持っているだけで天災が引き起こせるのなら、これほど恐ろしい術も無い。
もちろんクリスには、亡き母から受け継いだ力を、そんな事のために使う気など全くない。
「お前はまもなく、ホグワーツで多くのことを学ぶだろう。魔術に薬学、占術に天体学。そのどれもが召喚術とは異なるが、だからといってそれらの勉強を怠ってはならない。己を知り、魔力をコントロールし、そして強い精神力を育まなければどんな術も完全には至らない。それは魔法も召喚術も同じことだ」
つまりは、クリス自身が全体的にもう少し成長しなければ召喚術は使えないということらしい。最後の召喚師として、また亡き母に報いるため力の覚醒を目指していたクリスは少し残念そうにため息をつき、改めて召喚術という存在の重さに眉をひそめた。
「案ずるな、お前もきっと使えるようになる。それまでその杖を肌身離さず持っていなさい。そうすれば必ずや精霊がお前の意に答え、その身を守ってくれるだろう」
「……はい」
クリスが消沈していることを見抜いたクラウスは、薄く笑みを浮かべながら不器用にクリスの頭を撫でた。
普段は仕事にかまけてばかりで相手にしてくれることなんて滅多にないので、こんな風に優しくされると、クリスは照れくさいようなむず痒い様な心地がして、それ以上返す言葉が出てこなかった。とにかく急いで部屋を出ようと一礼して背を向けると、すかさずクラウスが声をかけた。
「待ちなさい、まだ話しは残っている」
そういえば始めに話が2つあると言っていたことを思い出して、クリスはもう一度机を挟んで父と向かい合い、その口が開くのをじっと待った。
だが父はクリスの顔をただ見つめるばかりで一向に話しを始めようとせず、クリスはついに悪い知らせだろうかと唇をキュッとかみ締めた。父の顔からはもう微笑みは消え去り、真面目というより、ただ無表情にクリスを見つめるだけである。