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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第16章 【ウィンガーディアム・レヴィオーサ】


トロールはクリス達には気づかず、開け放されたドアの前で鼻をヒクヒクさせて何か考えるような仕草をした後、ゆっくりと中に入っていった。グレンジャーがいるはずの、女子トイレの中へ――。

「クリスッ!?」

 後ろからハリーの声が聞こえたが、クリスの耳には入っていなかった。自分でも何をやっているか分からない。体と意識がそれぞれバラバラに動き、気がついたら女子トイレに向かって走り出していた。そして入り口に着く寸前に、耳を劈くようなグレンジャーの悲鳴がこだました。間違いなく、グレンジャーはこの中にいる!

「グレンジャー!!」

 クリスの見た光景は、あまり現実とは思いたくないものだった。恐怖に体がすくみトイレの壁に張り付くグレンジャーと、クリスの間に、自分の身長の2倍以上あるトロールが立ちはだかっている。今にも気を失いそうなグレンジャーに、クリスは力の限り叫んだ。

「何やってるんだバカ!早く走れ!!」

 しかし恐怖のあまり、逆にグレンジャーは床にへたり込んでしまった。数秒遅れで到着したハリーとロンは足元に置いている瓦礫を投げつけて何とかトロールの注意を引きつけようとしたが、トロールは全く意に返さずこん棒をブンブン振り回しながら徐々にグレンジャーに近づいていく。
 なぎ倒されてゆく洗面台の破片が体に当たっても、グレンジャーの背中は壁に吸い付いたように離れようとしない。そしてついにこん棒が体をかすめる距離まできたとき、クリスは驚くべき行動にでた。
 無謀にも暴れるトロールの脇を走りぬけ、そのまま体当たりの要領でグレンジャーの体を突き飛ばすとその上に覆いかぶさった。そのおかげでこん棒はクリスの体より50cmほど上を空振るだけに終わった。だが気を抜く間もなく次の攻撃がやってきて、クリスはより深い姿勢をとって何とか攻撃をかわした。

「あ、あああなた、自分が何をやってるか分かって――」
「頭を上げるな馬鹿!!」

 無理やりグレンジャーの頭をつかむと、再びクリスの体の下にねじこんだ。攻撃の精密さはほとんど無いが、もし当たったら即あの世逝きだ。
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