第16章 【ウィンガーディアム・レヴィオーサ】
「いったいあの女はいつになったら、ああいう偉そうな態度をとると他人の不興を買うって理解するんだ!?私に偉そうな口を聞いておいて、自分だって本当に他人のことを考えて行動していないじゃないか!」
グレンジャーに対するクリスの怒りは頂点に達していた。
1ヶ月ほどまえの図書館での事を、謝ろうかどうしようかと思い悩んでいた自分がまるで馬鹿みたいだった。最初からあんな奴に謝る必要など無かった、ああいう奴は少しくらい痛い目を見せて、思い知らせなくてはいけない。でなければこの先ずっと、あの出しゃばりにデカイ顔をされて学校生活を送る事になってしまう。
「あいつの顔を見るだけで吐き気がする、どうして同じ寮なんだ」
「まったくだよ!どうせならあいつ1人別の寮に移ってくれればいいのに、ご自慢の知識が存分に生かせるレイブンクローにでもさ。どうせあいつがいなくなったって、悲しむ奴なんてこのグリフィンドールには1人もいないんだ」
ロンとクリスが口々にグレンジャーの悪口を言っていると、隣にいたハリーが突然後ろからやって来た生徒におされてよろけた。ぶつかって来た生徒は一言も謝らずにそのまま早足でハリーの隣りをすり抜けて行ったので、一言文句を言ってやろうと思ったが言葉が詰まって出てこなかった。なんとぶつかった相手は散々悪口を言っていたグレンジャー本人だったのだ。
「今の、聞こえてたみたいだよ」
「えっ?」
「……泣いてた」
ハリーの言葉に、クリスのグレンジャーに対する怒りはみるみる内に冷め、代わりにあの時と同じ黒い感情が湧き出してくるのを感じた。ロンに視線を送ると、ロンはそれを突っぱねるように言い放った。
「別に……本当の事だろう。あいつに友達がいないっていうのは」
自分の非を認めたくないという気持ちはクリスも痛いほど理解できるので、ロンに対して何も言えなかった。
だが事態は予想以上に深刻だった。グレンジャーのことだから何があっても決して授業を欠席する事はないだろうとふんでいたのに、次の授業もその次の授業にもグレンジャーは教室に現われなかった。そしてその日の授業が全て終わり、夕食の時間に大広間を見渡してもグレンジャーの姿は無く、クリスはいよいよ自責の念に駆られてきた。