第2章 【大切な話し】
「何か感じるか?」
「いつもより強く……杖の力を感じます。暖かい、全身をまとうような抱擁感が……」
「それは恐らく、お前の中に眠る召喚師の血が目 覚め始めている証拠だろう」
喜ばしいことだと、クラウスは珍しく頬を緩ませると、何故か一瞬物悲しそうな表情を浮かべ、またいつもの仏頂面に戻ってしまった。父がこういう顔をするときは、決まって母が関係している。きっと11年たった今でも妻を失った悲しみを乗り越えられないんだろう。クリスはそう解釈していた。
「お前には間違いなく、レイチェルの血が……召喚師としての血が流れている。しかしそれだけでは精霊を使役することはできん」
「それは以前にも聞きました。精霊を呼び出すにはこの杖と、それぞれの精霊に対する特別な呪文の詠唱が必要だと」
「そうではない。……いや、それも必要だが、もっと大切なことがある。それは精霊との絆だ。それが互いの間で交わされていなければ、精霊の力を借りるどころか、呼び出すことさえできん」
「絆……」
確かに杖から感じる何かの存在。多分それが精霊たちのものだと言うことは察しが着くが、あまりにも感覚が漠然としすぎていて、その存在を自分の中でハッキリと掴むことが出来ない。ということは父の言うとおり、まだ精霊たちとの『絆』が出来上がっていない証拠だろう。
「それなら、どうやって絆を深めればいいんですか?」
「これから常に杖を携えていればいい。そうすることでおのずとお前の意思が杖を介して精霊たちと繋がり、絆も深まっていくだろう。その為にもどんな時も杖を供にするのだ。よいな?」
「……どんな時もとは、食事のときもですか?」
「ああ、そうだ」
「寝るときも?」
「ああ」
「お風呂に入るときも?」
「……必ず手の届くところに置いておきなさい」
それは少し面倒だと思ったが、そうしなければ使えないのなら仕方がない。むしろ、それだけで使えるようになってしまうことのほうが意外だった。