第16章 【ウィンガーディアム・レヴィオーサ】
実はあの図書館以来、グレンジャーとは口を利くどころか目も合わせていなかった。謝ろうとも思ったのだが、グレンジャーがクリスのプライドを傷つけたのも確かだったし、あんなに毛嫌いしていた相手に頭を下げるなんて絶対にしたくなかった。それでなくてもあの決闘の夜、せっかく謝ろうとしたのを無碍にされているのだ。もちろん多少の引け目は感じていたが、“あれはグレンジャーだって悪かった”と自分に言い聞かせ都合よく誤魔化していた。
「みなさん、前回の授業で杖の振り方と呪文を教わりましたね。そのときと同じですよ、基本は『ビューン・ヒョイ』です。呪文はハッキリ正しく『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』と唱えてください」
フリットウィック先生は生徒達1人1人に1枚ずつ羽根を配ると、さっそく練習に取り掛からせた。クリス達の班は1人ずつ順番に練習を見ていこうということになり、まず初めはロンからだった。
「ウィンガディアム・レヴィオーサ」
クリスとグレンジャーの見つめる中、ロンは試しに杖を一振りしてみたが、羽根は1cmたりとも浮かばず、立て続けに何度も呪文を繰り返してみても、その結果は変わらなかった。しかし落ち込むことは無かった、周りの生徒も同じくらい、またはそれ以上に悲惨な結果を生み出していて羽根を浮かばせた生徒は誰一人としていなかった。
クリス達の直ぐ後ろの机で練習していたハリーも、飛行術の時のように華麗に空を舞うことはなかったし、ハリーの相方のシェーマスなんぞはかんしゃくを起こして杖から火花を散らせ、練習用の羽根に火をつけてしまっていた。
「ウィンガディアム・レヴィオーサ、ウィンガディアム・レヴィオサー――」
「ロン、そろそろ疲れたろう。私と交代だ」
呪文を叫びすぎて息が切れ始めてきたロンに代わり、今度はクリスが練習する番となった。ロンはともかくグレンジャーが見ているので惨めなところは見せられない。
背筋を伸ばし真っ直ぐ羽根に杖を向けると、軽く息をついて目をつぶった。飛行訓練の時もそうだったが、きっと魔法を使う時は意思がハッキリしていないと上手くいかないのだろう。あの初めて箒を浮かせた時の感覚を思い出しながら、杖の先まで神経を集中させ呪文を唱えた。