第16章 【ウィンガーディアム・レヴィオーサ】
驚くハリーを尻目に、クリスは2羽のカラスから受け取った小包をさっそく開けて見ると、中にはハロウィンらしくお化けやかぼちゃの形をしたクッキーやチョコレート、キャラメルにキャンディーが沢山詰まっていた。クリスがクッキーを1つつまみながら包みに付いていた手紙を広げると、チャンドラーの変にくねった文字で長い長いお説教がずらずらと書いてあった。それらを読まずにさっと目だけ通していくと、1文だけピタリと目にとまった。
――ご主人様からうかがったとは思いますが、くれぐれも勉強は怠らぬよう、また興味のあるものだけでなく全ての教科をまんべんなくお勉強なさいませ。
お嬢さまはいつもご自分の好きなものだけに力を入れる癖がありますのでお気をつけ下さい。――
そうだった。三頭犬の守っている物ばかり気にしていてすっかり忘れていたが、杖を継承した日、父は召喚術を会得するためには“勉強を怠るな”と言っていた。しかし実際はチャンドラーの見通したとおり、調べものに時間を費やしすぎて、学校の勉強がおろそかになっている。このままでは召喚術の近道を探すために、自分から召喚師への道を遠ざけている事になる。
「はぁ……仕方がない、か」
悔しいが体調の事もあるし、暫くはこの生活サイクルを止めざるを得ないだろう。といっても今までが根を詰めすぎていただけで、これから調べる時間が全く無くなってしまうわけではない。
クリスはチャンドラーの手紙をたたんでポケットにしまうと、荷物を運んできてくれた2羽のカラスにベーコンを食べさせてやった。カラス達は声をそろえて「オソレイリマス」と礼を言ってから、入ってきた窓から帰っていった。
「それにしても凄いね、魔法使いのカラスってみんな喋れるの?」
よほど興味が湧いたのか、2羽が出て行った窓から見えなくなるまでその姿を見つめていたハリーが感心したように呟いた。
「まさか、あんなに人語を話すのはあのヤナフとウルキだけだよ」
「“ヤナフ”と“ウルキ”? それがあのカラス達の名前?」
「そう、ヤナフとウルキは父の使い魔なんだ。グレイン家の人間は代々、言葉を操る訓練を積んだ特別なカラスだけ使い魔にしてきているらしい。まあ我が家の特徴みたいなものだな」
「でもクリスのネサラは喋らないじゃないか」