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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第15章 【不安と焦燥】


「いいさ、君だから言うけど……そりゃ、あるさ。他人に弱みを見せてはいけないとか、父上の前では何事も完璧にこなすように心掛けなきゃいけないとか思うと……少し」
「もしルシウスおじ様に“お前はマルフォイ家の人間には相応しくない”って言われたら?そう考えるだけで不安にならないか?」
「だから必死にそうならないようにしてるんじゃないか。勉強も運動も、誰にも負けないように――それなのに、ポッターめ。僕よりも早く選手に選ばれるなんて……マクゴナガルも自分の生徒だからって贔屓して……」

 ハリーの名前を出すとドラコは思い出したように苛々し始め、このままだと別の方向に話が進みそうだと感じたクリスは、慌てて話しを戻した。

「じゃあそんな時、ドラコはどうしてる?」
「別にどうもしないさ」
「どうもしない!?」
「ああ。重荷に感じるからと言って、今さらそれを捨てる訳にはいかないだろう。それにこれは僕の責任で、僕だけの問題だ。だから解決できるのも僕だけだ。……もしかして、クリスはそんな事を気にして僕との婚約を嫌がってるのか?自分がマルフォイ家に相応しくないと」
「違う!婚約は関係ない。そっちじゃなくて召喚術の方を心配してるんだ」

 ドラコは足を止めるとクリスの姿に目を向けた。魔法界でも稀有な能力である召喚術。その力を持って生まれた事を、誰よりも真剣に受け止めている事はドラコも知っている。

「それじゃあ、まさかクリスは召喚師を辞めたいとでも思っているのかい?」
「辞めたいとまでは思ってない、けど――」
「けど、なんだい?」
「……だけど怖いんだ、もし召喚師の力が目覚めなかったらって思うと。杖を譲り受けた時は全然そんな事思わなかったのに、最近はその事ばかり考えてる。でもそう考えるたびに不安で不安で仕方なくて……もうどうしていいのか分からないんだ」

俯いて自分の靴を見下ろしながら、クリスはまた本棚の奥で震えるグレンジャーを思い出していた。 
そうだ。自分はあのとき、追い詰められた挙句、その矛先を全てグレンジャーに向けてしまった。不安、責任、焦り、苛立ち、そして抱えきれない感情の全てを露呈し、それをぶつけて彼女を傷つけてしまったという罪悪感。それが胸に湧いた黒い感情の正体だ。
 クリスは靴の先を見つめたまま、ほとんど口を動かさずに呟いた。
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