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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第15章 【不安と焦燥】


 もちろんグレンジャーはクリスがそんな思いで調べていたとは露ほども知らないだろう。だが知らなかったから許されるものでは無い。グレンジャーはクリスのプライドを侮辱したのだ。彼女の容姿以上に触れてはいけない、唯一母から受け継いだ形見ともいえる召喚師の力を、寮得点以下だと言ってしまったのだ。
 クリスはグレンジャーの胸倉をつかむと、力いっぱい本棚に押し付けた。

「私がどんな思いでこの1ヶ月を過ごしたか、お前に分かるか!?ここに来るまで自分が魔女だと言う事も知らかったお前に!暖かい家庭と優しい両親の下でなに不自由なくぬくぬくと育ったお前に!孤独も、束縛も、使命もないお前に私の気持ちが分かると言うのか!? 得点?他人の迷惑?そんなものが私を召喚師にしてくれるのか?そんなものが私の不安を取り除いてくれると言うのか!?」
「――…な、苦しっ…放して……」

 息も絶え絶えに涙目で懇願するグレンジャーを放してやると、彼女はその場にへたり込んだ。必死に息を整えているだけで何も言い換えそうともしない、負けん気の強いグレンジャーらしからぬその姿を見下ろすうちに、クリスはどこか目の奥のほうが麻痺するような感覚に襲われた。それと同時に破裂した黒い感情が湧き出し、クリスの体内を徐々に蝕んでいく。
 クリスにはその感覚が何なのか分からなかった。ただ弱々しいグレンジャーを見て、空恐ろしくなってきた。

「……もう、私のすることに口を出すな」

 それだけ言うと、クリスはそこにグレンジャーを残したまま静かに図書館をあとにした。それでも意識だけはそこに取り残されたかのように、本棚の奥で震えるグレンジャーが頭に染み付いてはなれない。全部言いたいことを言ってやったからスッキリすると思ったのに、余計に気分が悪くなってしまった。こんなことになるなら、グレンジャーなど相手にするんじゃなかった。

「クリス!おい、クリスッ!」

 談話室へ向かうでもなく、ふらふらと校内をさまよっていると、後ろから聞きなれた少年の声が響いた。振り向いたその視線の先にはドラコが立っていて、クリスはホッとした。なぜか今この時だけは、ハリーやロンには会いたくないと思っていたからだ。
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