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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第2章 【大切な話し】


 そう言った父の顔は、いつもの仏頂面に加えてどこか緊張した表情で、クリスは直感的にあまりいい話ではないと思った。クラウスはおもむろに席を立つと、古い木の箱を慎重に机の上に置いた。ちょうど人一人分ほどもあるこの箱は、机からはみ出してしまっている。

「開けてみなさい」

 クリスは自分の心臓が高鳴るのを感じた。しかし箱の中身が気になって興奮している訳ではない。逆に知っているのだ。この箱に入っている物が何なのか、そしてそれが己にとってどれほど大事なものなのかを。

 震える指で箱のふたを持ち上げると、中に入っていたのはスタッフと呼ばれる種類の、1本の木の杖だった。普通、魔法使いの杖というものはどんなに大きくても40センチほどで、指揮棒のように真っ直ぐな形をしている。しかしこの杖は違っていた。その大きさは大体クリスより頭ひとつほど大きく、杖の先は曲がり、先端には透明なクリスタルがはめ込まれている。
 この不思議な杖こそが、例え姿や顔は似ていなくとも、クリスがレイチェルの娘だという確固たる証であり、母の残してくれた唯一の形見だった。

「お前も知っての通り、これは召喚術の杖だ。手にとって御覧なさい」

 召喚術とは、この自然界を司る精霊を呼び出し、その力を意のままに操る術のことである。それが使えるのは、古来より伝えられてきた召喚師の血統だけに限られている。

 そしてクリスの母、レイチェルこそがその血統であり、クリスが母から受け継いだ唯一のものというのが、その召喚師としての能力なのだ。

 クリスは言われたとおり杖を慎重に箱から取り出すと、柄の部分を軽く握った。すると、暖かい温もりのようなものが杖から伝わってきた。
 
 そういえば、昼間に魔法の杖を買いに行った時も、似たような暖かさが自分の中から湧き上がってくるのを感じたが、それとは少し違う。杖を介して、全身がまるで不思議な力に包まれているような、ぬくもりと安心感が得られる。

 以前この杖に触ったのは、クリスが11歳の誕生日を迎えた日だった。普段は父が魔法をかけて厳重に保管をしているのだが、1年に1度、誕生日の日だけはこの杖に触れることを許されていた。数年前から徐々に杖のぬくもりを感じられるようになってきていたが、今日ほど強く感じたことはない。
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