第14章 【波乱の幕開け】
「だからってなんで箒を教わったくらいで箒をあげなくちゃならないんだ!仮にもあれは父様から頂いたものだぞ。それをおいそれとやるほどの親不孝者でも、そんな慈善事業を始めた覚えもない!」
くだらなさ過ぎるドラコの言い分に、頭に血が上ったクリスは早口で捲くし立て、今度はドラコがクリスの剣幕に圧される側となった。普段のスカした良家のお坊ちゃまとは打って変わり、叱られた子供のように視線を落とすドラコが何も言い返そうとしないので、クリスはそれで納得したのだと受け取り、ハリー達の待つ談話室に戻ろうとドラコに背を向けた。
「ちょ、ちょっと待った」
「……今度は何だ?」
急がないと授業に遅れてしまう。その焦りも相まって口調は自分で思ったよりも刺々しかった。それは相手にも十分に伝わったのだろう、ドラコの表情が微かに傷ついたかのように見えた。それでも、掴んだ手を放そうとはせず、覚悟を決めたように真っ直ぐクリスを見据えた。
「……なあクリス、僕たちがいがみ合うのはもう止めにしよう。親の決めた婚約の所為で僕らが喧嘩するなんておかしいだろう」
「んなっ、良くそんなこと言えるな!元はと言えば始めにそっちがコンパート――」
「――メントでの事は詫びるよ、だけど最初に何通も手紙を贈ったのを無下にし、直接会いに行っても取り次ごうともしない。挙句の果てに入学式の日に迎えに行くと連絡したのに、それを無視して先に行ったのはどこの誰だ?」
「それは……その……」
またもや形勢逆転、クリスはバツが悪そうに視線を泳がせた。すっかり忘れていたが、確かに初めに邪険にしたのはクリスの方だ。入学以降も徹底的に顔をあわせようとはしなかったし、話しかけられても一方的に話しを打ち切らせてばかりだった。
いくら婚約反対の意思表示の為とは言え、これではドラコが怒るのも無理は無い。それなのに最近ドラコの態度が悪いと腹を立てるのは、少々虫が良すぎるかもしれない。