第14章 【波乱の幕開け】
「あなた達なに言ってるの?あの犬が何の上に立っていたのか見ていなかったの?」
「何の上って、床の上じゃないの?」
「頭見るので精一杯で、僕ら足元まで見てる余裕なんて無かったよ」
ハリーとロンがそう答えると、グレンジャーはますます呆れたようにため息をつき、その鈍感さにイライラしてクリス達をにらみ付けた。彼女は気力体力と共に、クリス達に対する怒りまで取り戻してしまったようだ。
「違うわ、扉よ。床にある仕掛け扉の上に立っていたのよ!きっと何かを守っているんだわ。あなた達はさぞご満足でしょうね、規則を破って夜中に出歩いて、尚且つ立ち入り禁止の部屋にまで入って――皆死んでいたかもしれない、最悪には退学になっていたかもしれないのに!」
さらにグレンジャーは「結局マルフォイにもはめられて無駄足だった」とか「やっぱり最初から私の忠告を聞いていればよかったのよ」などと続けたが、クリスはもうほとんど聞いていなかった。
諦めきれずなんとか杖の兆しを見つけようと、あらゆる角度から杖を観察したり、握り締めて強く精霊達に語りかけたりしていた。こういうときは11年間チャンドラーによって鍛えられた聞き流し能力がとても役に立つ。
「もう付き合ってられないわ、私、先に部屋に行って休ませてもらいますからね」
言いたい事を言い終わると、グレンジャーは最後にフンッと鼻息を荒く立てて女子寮への階段を上っていった。それまで身をちぢませて震えていたネビルも、丁度言い機会だと思い男子寮へ帰っていた。残ったのはハリー、ロン、クリスの3人だけだ。
「なんだよあの言い方、“付き合ってられないわ”だって?僕らがいつ付き合わせたんだよ、勝手についてきたくせに!」
グレンジャーの最後の一言に腹を立てたのはロンだけで、ハリーもクリスもそれに曖昧に相づちを打っただけだった。ハリーはともかく、いつもなら絶対にロンと一緒になってグレンジャーの悪口を言っているはずのクリスが、今回は何一つ言い返さずただ黙って杖を弄っていただけだったので、ロンには不思議でしょうがなかった。
「どうしたんだよクリス?なんかあった?」
「ん?……ああ、その」
本当の事を答えるべきか否か迷ったが、別に召喚術の事は黙っている必要がないので2人に話すことにした。