第12章 【ライバル】
子供の頃は『グレイン家の娘』そしてこれからは『マルフォイの許婚』どこに行っても、何をしてもついて回る足かせのような肩書きが、何よりも嫌だった。
落ち込むクリスの肩に、フレッドとジョージ2人の手が乗せられた。
「まぁまぁ、そう落ち込むな友よ。考え様によってはいい事だってある」
「そうさ、これで君が女だって事が全校生徒に知れ渡ったじゃないか。マルフォイがホモだって勘違いしているヤツ以外には」
ロンは何も言わず、苦い顔をして額に手を当てた。これで2度目だ、彼らがいらぬ事を言ってクリスの逆鱗に触れてしまったのは。
クリスがとっさに杖に手を伸ばそうとしたが、危険を感じたフレッドとジョージがそれぞれ両腕を掴んだ。クリスは2人の少年によって、まるで警察に取り押さえられた犯人のようにガッチリと拘束されてしまった。
「放せ」
「ノン、ノン。放したら君は僕らに呪いをかけるだろう?」
フレッドもジョージも笑顔を浮かべているが、同時に冷や汗もうっすらと浮かんでいる。クリスの細い腕では少年2人を振りほどくほどの力はなく、代わりに残った武器である彼女特有の赤い目で2人を睨みつけて問いかけた。
「そんなに私は男に見えるか?」
「いやだなクリス。ジョークだよ、ジョーク。クリスが男に見えるなら、ホグワーツ中男だらけさ」
「そうそう、今の時代レディーもユーモアを持たなくちゃ。君に足りないのは、唯一それだけさ。あとはもう素敵完璧パーフェクトだ」
「……なるほど、今の時代“レディー”も“ユーモア”ね」
自分に言い聞かせるように呟くと、目の前のロンも同調して小刻みに首を縦に振った。顔には「なんでもいいから早く怒りを冷まして」と書いてある。クリスは観念して拳の力を抜いた。
「つまり私がユーモアの心でもって、2人のジョークを受け入れれば良いんだな?」
「そういう事さ、話が早くて助かるよ」
「そうか……ところで話は変わるが2人とも、人間の急所がいったい何ヶ所あるか知っているか?」
「いいや、知らないねぇ」
「そうか、実は私も知らない。でも1か所だけ知ってるな、蹴られると、物凄く痛い場所だ」
「おいおい、まさかアレなんて言うんじゃないだろうな。下ネタとユーモアは違うぜ、お嬢さま」
「……下ネタかどうかは――その身で確かめてみろ!!」