第8章 月島夢04
「ひっ!…ちょ、柚季、その表情はまずいよ…!怖いってば……俺、何かした?」
「……………ごめん、してない。でも願わくば今日だけは少し蛍の時間を譲って貰えると助かる…。」
「え?ツッキーの時間?どういう…………あ、」
忠は今日の日付を思い出したらしい。
納得したような顔の後、けらけらと楽しそうに笑った。
「そっかー、それで朝から変だったんだ!うん、それは大丈夫だよ。俺、今日はサーブ練習しに行くからさ。……でもそっかー……柚季もちゃんとツッキーのこと好きなんだね。」
ホッとした、と笑う忠は本当に嬉しそうでからかってる雰囲気じゃないから素直に頷く。
「そりゃ、まぁ、ね。……あ、でも忠のことも忘れてないよ?はい、これ。」
忠は義理だけど、私と蛍の大事な友達だから少しだけ特別。
忠のは部の皆のよりちょっと多い。
「あ、今年も作ってくれたんだ。ありがとう。」
「いーえ、毎年同じで悪いけどね。一応忠のは蛍の次に特別だから。」
「そうなの?……ツッキーにはクッキーじゃないよね?」
「勿論……一緒にしたら後が怖いじゃん…。」
下手したら次の年のバレンタインまでいじられ続ける…。
「はは…そうかもね……。」
「…柚季、山口、何2人で話してるの?」
油断していた私と忠は思わずびくりと体を弾ませる。
「び、びっくりさせないでよ、蛍…!!」
「別に普通に来たけど。……山口、いつもの貰ったんだ。」
「あ、う、うん。」
…あ、自分がまだだからちょっと拗ねてる?
そう感じて、蛍の制服の袖を引っ張る。
「蛍には、帰る時に渡すから一緒に帰ってね?」
「っ………しょーがないな、分かったよ。」
ふいと顔を背けたけど、耳が少し赤いからもう拗ねてはいなそう。
こんな日に喧嘩したくないしね、とひと安心しているとチャイムが鳴った。
「あ、席戻んなきゃ。ありがとね、柚季。」
忠が先に戻って、蛍はちらりと私を見る。
「…じゃ、期待してる。」
「うっ……が、頑張ったけど、プレッシャーかけないでよ…!」
「焦らされるんだからこのくらい良いデショ。」
私が言葉を返す前に蛍は席に戻って、すぐ後に先生が入って来た。
……蛍の期待に応えられると良いんだけど…。