第8章 月島夢04
そうして時間は過ぎて部活になり、部活も終わって着替え終わって部室から出ると蛍が待っていた。
「お待たせ。今日、着替えるの早いね?」
「田中さん達に絡まれそうになって、さっさと着替えて出て来たから。ほら、寒いし行こう。」
蛍はそう言って私の左手をぎゅっと掴んで歩き出す。
「え、どこ行くの?」
「ここにいたら早く出て来た意味無くなるデショ、グラウンドの方にでも行こう。」
ちょっと早歩きで移動して、グラウンド近くの街灯の辺りに来たら蛍が立ち止まって私を振り返った。
「…ここならあの人達も来ないかな。………で。」
と言って手を差し出す蛍。
すぐにチョコだと思い至ってバッグの中から紙袋を出す。
「……はい、どーぞ。」
「うん…開けて良い?」
「え、ここで?」
「焦らされたし、今甘いモノ食べたい気分なんだよね。」
私が止める間もなく蛍は袋から箱を出してリボンを解き蓋を開けた。
「へぇ…付き合いだしたら随分変わるね。」
「うっ……た、確かにちょっと凝りすぎたかなとは思ったけど!」
蛍は面白そうに笑って、チョコをひとつ取ろうとしたけど、ふとその手を止めた。
どうしたんだろうと思って顔を見るとにっこり笑われて、箱を差し出された。
「食べさせてよ。」
「………はっ?」
「だから、彼女サンに食べさせて欲しいんですケドー。」
「な、何で?!」
「良いじゃん、ほら早く。柚季に合わせて屈んでると疲れるんだけど。」
急かす蛍に根負けして、チョコを一粒指につまむ。
「い、1個だけだからね…?……はい。」
「そこはあーんじゃないの?」
「っ!は、早く食べて!」
にやにやしてからかおうとしてきた蛍の唇にチョコを押し付ける。
蛍は少しつまらなそうな顔をしたけど、口を開けてチョコを食べた。
「ど、どう?」
どうかな、自分で味見した時は美味しいと思ったんだけど蛍の口にも合うかなとドキドキしながら聞く。
「………柚季って不器用なのにこういうのは得意だよね。」
「一言余計!」
「はいはい。……美味しいよ、ありがと。」
そう言って蛍は横を向いてしまったけど、街灯の光で少し顔が赤くなってるのが見えた。
「ふふふ、どういたしまして!」
喜んでもらえて良かった、心からそう思った。