第3章 磨励自彊ー2日目ー
ー菅原sideー
ちゃんと俺の気持ちは彼女に伝わったらしい。小さく頷いたその様子に安堵の息を漏らした。
何だか今日ずっと京香さんが青城と居て、そっちへ行ってしまうのではないかと焦ってたらしい。勢いで手を繋いで、抱き締めて、キスまで…京香さんが俺のことを断ろうとしているのはわかってる。俺は影山みたいに鈍くはないから。
でもその理由が、俺が高校生だからってことなら待つしかない。彼女が俺を一人前の男として見てくれるようになるまで。確かに、彼女の言う通り振り向いてくれないかもしれないけど、諦められないんだ。それだけ、好きになってしまったんだ。だからせめて、貴女を好きでいさせて…
「部屋まで送るって言ったのに、話し込んでごめん。今度こそ、行こう」
「ううん、大丈夫。ありがとう孝支君」
ゆっくり立ち上がって手を差し出せば、少しで迷いながらも握ってくれた京香さん。俺が笑えば笑顔を返してくれた。
今度は優しくその手を握って、数メートル先のマネージャー部屋まで歩いた。あぁ、もう着いてしまった。
部屋に着けば離される手。本当は離したくない。
「じゃあまた明日。タオルありがとね、おやすみ孝支君」
「あ、うん。おやすみなさい京香さん。風邪ひかないようにね」
そう言って扉を開けて中に入っていくのを見届けた。その時に清水と目が合って何か言いたそうな顔をしていたけど、キスしましたなんて言えるわけがない。追求される前に逃げておこうと思えば踵を返して大部屋へ。
少し歩けば感じた気配。実は京香さんと話してた時から感じては居たんだけど。
「…いつまでそこに居るんだ?」
「…はは、バレていたか」
「覗き見なんて趣味悪いなー」
「いや覗こうと思ってたわけじゃなくてだな…」
影に隠れていたその人物は、申し訳なさそうに頭を掻きながら俺の前に姿を見せた。偶然に居合わせてしまっただろうが、きっと気になって動けなくなってしまったのだろうと容易に想像出来た。
何年一緒に居ると思っているんだ、どうせまた自分の気持ち抑え込んで俺の気持ちを優先してくれたのだろうこの男は。
ちょっと話すべ、と頷いたのを見れば一番奥のベランダに2人で向かった。