第3章 磨励自彊ー2日目ー
孝支君からのキスは、飛雄君からのそれとは違ってとても優しいものだった。きっとこの人なら大切にしてくれる、そんな気持ちになる程の。
でも、未成年に手を出すわけにはいかないから。誰かを好きになってはいけないから、そっと孝支君の胸を押して身体を離す。これ以上気持ちが揺らがないようにと。
「ごめん孝支君。気持ちは嬉しいんだけど…」
「ストーップ!」
今は孝支君のこと、好きになれない。その一言を伝えようとするものの少し大きめの声でそれを制された。頭に手を置かれれば、ゆっくりと彼を見上げる。その表情は私の言いたかった言葉がわかっているのか辛そうに歪められている。
「俺はごめんなさいが聞きたいわけじゃない。言ったべ、好きになってって…本当はさ、今すぐにでも好きになってくれたら良いのにって思うけど…やっぱり待つ!まあ、ちゃんとアピールはしてくけどね」
懸命に笑顔を作っているその顔が痛々しくて、私のせいでそうさせているのだというのに何も言えなくて。思わず私が泣きそうになってしまえばまた顔を俯かせた。
「ごめん、困らせたいわけじゃなくて…あーもう及川みたいに言葉が出てくればいいのに!」
私の頭から手が退いたのでそっと顔を上げれば、孝支君は少し乱暴に頭を掻きながら何て言えば良いのかなと悩んでいるようだ。彼らしくないそんな様子にクスリと笑ってしまえば、ジッと見つめられて笑ったことを慌てて謝る。
「違う違う!安心したよ、やっと笑ってくれたから。俺のせいで明日からギクシャクしても嫌だしって思って。こう、フォローするような言葉出てこないし…」
あー良かったー!としゃがみ込んでしまった孝支君。吃驚して、大丈夫かと項垂れている彼の背中を撫でてあげれば顔を上げてニコッといつもの笑顔を見せてくれて私も安心する。
「孝支君、待っててくれても私が君を好きになるとは限らないよ?孝支君優しいし、もっと良い子」
「…黙って」
私が喋りだしたのをまた制するように今度は少し乱暴に唇を塞がれた。彼の唇によって。私が驚きのあまり固まっていると、言葉が途切れたことを満足そうに微笑んだ。
「俺は京香さんじゃなきゃダメ。他の子なんて考えられない。だから、好きでいさせて?俺に待たせて、貴女のこと…」
そんな彼の言葉を拒絶することなんて出来なくて、私は小さく頷くことしか出来なかった。
