第3章 磨励自彊ー2日目ー
「さ、他の奴らに見つかる前に着替えた方がいいな。部屋まで送っていくよ」
「そんな大丈夫だよ!すぐそこだし…」
「いいの、俺がしたいだけだから」
私が首を振ってお誘いを断れば少し不機嫌そうな顔になった孝支君。少し強引に私の手を取れば、彼の少し大きい手に包まれた。手を繋がれたわけである。
離さないとでもいうようにキュ、としっかり繋がれれば歩き出す孝支君。当然、手を繋がれているため引っ張られるように私も歩き出す。
階段からマネージャーの部屋までほんの十数メートル。
その距離が遠く感じる。歩き出してから一言も喋らない孝支君の背中を見つめ、視線を下へと向ければ繋がれた手。
勿論、今まで彼氏はいたし手を繋ぐことだって何度もあった。だけど何故だろう凄く緊張してしまう。胸の鼓動が早いのがわかる。
「ごめん京香さん」
「へ?」
急にピタリと立ち止まった孝支君。いきなり謝られて変な声が出た。孝支君は振り向かないまま、言葉を続けた。
「俺、焦ってた。今日ずっと青城の奴らが京香さんと一緒に居たし、及川だって花巻だって俺なんかより女性の扱いに慣れてるし。俺は子供みたいに嫉妬したりして…カッコ悪いな」
「孝支君…考え過ぎ。確かに青城のみんなに今日はいっぱい迷惑かけちゃったけど…合宿中は青城のマネだし。ちゃんと孝支君のことも見てるよ?飛雄君と徹君の睨み合い止めてくれたり、トスも上げてくれた。ちゃんと見てるから…大丈夫、孝支君はそのままで十分かっこいいから」
「っ…」
そっと背中を撫でてあげればピクリと反応した彼の身体。
急にクルリと振り返ったと思ったら腕を引かれてそのまま彼の腕の中へ。抱き締められたことによって彼の少し早い鼓動を感じる。
抱き締め返してあげられなくてごめんね、と心の中で謝りながらも背中を撫で続ける。
「やっぱり、俺京香さんが好きです。誰にも負けない。だから、こっち振り向いて。早く俺のこと好きになって…」
そっと肩を掴まれ身体が離される。真剣な表情の孝支君をまともに見れなくて私は顔をそらす。
が、頬に手を添えられてそらすことが出来なければ、この雰囲気の先に待ち受けているものが容易く想像出来る。
ダメダメ!と思っていても身体が動かない。
結局抵抗出来ずに、蜘蛛に捕らわれた蝶のようにされるがまま、優しく唇が重なった。