第3章 磨励自彊ー2日目ー
階段を上がっている間、一静君に言われた意味を考えた。
貴大君や徹君だったらジャージ貸してくれないとか?あ、何バカなことしてんのって笑われるってことか!流石青城のお母さん。何だか今日は青城にたくさん迷惑と心配かけちゃったな。
「京香…さん?」
「ん?あ、孝支君」
私が落ち込みながら俯いて歩いていると、前から名前を呼ばれて顔を上げるとそこには孝支君が。近くまで来た彼、笑顔だったのが段々と曇ってくる。どうかしたのだろうかと尋ねようとすると、孝支君が口を開いた。
「何で、青城のジャージ着てるの?」
「あぁさっき一君に借りたの。上がってくる時に会って」
「岩泉に?」
表情が曇ったままの孝支君。まあライバル校のジャージだからね、あんまり気分が良いものではないよね。私が頷けば、何かに気付いたような孝支君。ちょっと待っててと言えばバタバタと部屋に走っていき、暫くしたら戻ってきた。手にはタオルを持って。
「はい、京香さん使って?もしかして、風呂掃除で濡れたんだべ?」
「えっ、いいよ私のタオルあるし!まあ、うん…そうなんだけど」
「前俺に貸してくれたから、これでおあいこ。ほら風邪引いちゃうぞ」
「わかった、ありがとう。一緒に洗濯して返すね」
優しく濡れた髪をタオルで拭いてくれる孝支君。
こんな優しく扱われたことなんてなかった為、落ち着いていた心臓がまた激しく鳴り出す。
「いいよ、どうせこれから風呂でタオル濡れるし。はいある程度乾いたぞ。早く着替えてそのジャージ、脱いで」
「ごめん、そうだよね。ライバル校のジャージだからいい気分じゃないよね」
「はぁ…違うよ京香さん。俺のジャージじゃないから嫌なの」
「…え?孝支君のジャージじゃないから?」
「そ。何を勘違いしてるのかわからないけど、好きな人が他の男のジャージ着てたら嫌だべ。ただそれだけ。俺の嫉妬、わかってくれた?」
私にもわかるようにだろうか、大きく溜め息をついた孝支君はそっと私の頬に手を添えて、真剣な表情で私を見つめてそう言った。
その言葉を自分の中で理解すれば、恥ずかしさと照れくささに顔に熱が集まる。孝支君の顔をまともに見ることが出来なくて、視線を外しながらもわかったとコクコク頷けば、満足そうに笑った顔が視界の端に映った。