第3章 磨励自彊ー2日目ー
コソコソとしながら音を立てぬように階段を上がる。泥棒はこんな気持ちで忍び込んでいるのだろうかとおかしな思考になりつつも、とりあえず2階に到達。
「…よし」
「京香さん?何してんすか」
「うひゃああ!」
誰も居ないことを確認してまた階段を上がろうとすると、後ろから声をかけられて思わず変な声をあげる。私の声に吃驚したようなその人物も肩をビクッとさせた。
「お、俺です!岩泉です。すみません驚かせるつもりは…」
「一君か!ご、ごめん驚かせたね」
「いえ…ん?髪濡れてません?何かあった…」
振り返るとそこには一君が。私が濡れてることに気付いたのか、眉間に皺が寄ったと思ったらボッと顔が真っ赤になって思い切り顔をそらし口元に手を当て目が泳いでいる。
「一君…?どうかした?」
「あ、いや…えーと…」
「岩泉ー?そんなとこで何してんのー」
「ッ!花巻…!京香さん俺のジャージ着て下さい」
「えっ、一君のジャージ濡れちゃう」
「いいから!」
「あ、ありがとう」
階段の下から貴大君の声がして、どうやら一君を見つけて声をかけたようだ。それに慌てだした一君はおもむろに青城のジャージを脱いで私に着せてくれた。一君らしからぬ強引さに素直に腕を通せば、一君の手によってファスナーも全て上げられた。
何だか、一君との距離が近くてドキドキしてしまう。
必然的に練習着から見える逞しい腕に思わず見惚れてしまった。
「あれ?京香さんじゃん。ん?うちのジャージ?」
「あ、貴大君。今ね、一君に借りたの」
「岩泉に?」
「…何だって良いだろ。ジャージいつでも良いんで…ほら花巻行くぞ」
「あ?ちょ、岩泉何だって!俺を及川みたいに扱うなよ!」
貴大君をズルズルと引きずる様に部屋へと歩き出した一君たちを見送ってから、早く着替えなきゃと階段を上がろうとするとまた名前を呼ばれて振り返る。
そこには一静君。何やら企んでいるのか彼の特徴的なアヒル口がニヤリとしていた。そのまま近付いてくればポンと頭に手を置かれて。
「見つかったのが岩泉で良かったね。及川や花巻じゃなくて。風邪引かないでよ」
それだけ言うとポケットに手を突っ込んで部屋へと向かう一静君。
その後ろ姿を見届けてから、足早に階段を駆け上がった。