第3章 磨励自彊ー2日目ー
「やりたくないのならやらなければ良い。お前は京香と違って才能がないからな。これ以上やっても無駄だろう」
「若利…!」
幼馴染の若利だった。あいつに悪気がないのはわかってる、でもストレート過ぎる言葉に私はカチンときた。何も知らないくせにって若利に掴みかかった。でも、私の言葉はリコには届かなかった。
「もう私はバレーなんてしない!お姉ちゃんなんか大嫌い!」
「待って!リコ!若利離して!」
リコは泣きながら走って行ってしまった。急いで追い掛けようとしたんだけど、若利に腕を掴まれれば力じゃ勝てなくて。
「お前は才能がある。しっかりとした場所で伸ばすべきだ。白鳥沢に来い」
その時、何も考えられなかった私は、若利の言葉に従うしかなかった。リコを私から解放してあげる為にはそれしかないと思った。
白鳥沢に編入して寮生活になることによって、私自身をリコから離した。
白鳥沢のバレー部は凄かった。部員みんながみんなエース張れるくらいのレベル。コーチも監督も練習内容も、中学のレベルではない程だった。
でも楽しくなくてね。自分が強くなってるのは凄く実感できたし、時々若利は私の事気にしてくれてたんだけど…
そんな時に大会で前の中学の後輩とバッタリした。リコと仲が良かった子で、話し掛けると私には内緒にしていたことがあるって言われたの。
「実は梨香、肩を痛めていたんです。京香先輩には絶対に言うなって言われてたので言えなかったんですけど…」
衝撃だった。あんなにいつも一緒に居たのに私は気付いてあげられてなかった。なんて姉なんだって自分を責めた。
私が求めるプレーをする為に無理していたなんて想像もしていなかった。どうしても謝りたくて、その日の帰りリコを探しに家の方へ行ったの。
丁度タイミングよくリコの姿が見えてね、私は追い掛けた。
あの日追い掛けられなかったから今度こそはって。
その道は車の交通量が激しくてね、早く追い掛けなきゃって焦ってた私は道路に飛び出した。そう、車が来てることなんて気付かずにね。
車のクラクションで気付いたんだけど、足が竦んでその場から動けなかった。
「お姉ちゃん!」
ーー私が意識を失う前、最後に聞いたのはリコの声だった。