第3章 磨励自彊ー2日目ー
ゆっくりと徹君の顔が近付いてくる。反射的に目を瞑れば耳元で笑うような声がして。
「俺がお父さんになる時は、お母さんは京香ちゃんしか居ないからね」
覚悟しておいて、という言葉と共に頬に触れる感触。
驚いて固まっている私をよそに、フンヌフーンといつも口ずさんでいる鼻唄を歌いながら上機嫌で体育館へと戻っていった徹君。
まさか彼まで私のこと…とまで考えてから慌てて首を振る。
自惚れんな、よく考えろ。ただ女の子に慣れてるだけ。からかわれてるだけ。私は歳上で彼はまだ高校生。
「京香さん」
名前を呼ばれてハッと気付けば目の前には一君。
真面目な表情の彼にもドキッとしてしまう。
「とおるとの約束だけじゃねえけど、守ります。俺が京香さんのこと守ります」
「は、一君…あり、がと…」
真っ直ぐな言葉に今度は私が照れてしまう。
何とも言えない空気が私たちを包み込む。
「京香さん!」
そんな空気を破ったのは、体育館から飛び出してきた部員たち。
振り返って見ると夕君と龍之介君、翔陽君は飛び付きそうなのを力君と孝支君が掴んで押さえつけているようだが。
その後ろでは大地君や貴大君、一静君が安心したような表情を浮かべている。あぁ本当たくさん心配かけちゃった、と申し訳なく思って頭を下げようとすれば、ポンと頭を撫でられて。
「京香さんが無事に戻ってきてくれて良かったっす。居なかった分、あいつら扱いてやって下さい」
「…うん!よし一君行こう!」
私はにっこりと微笑んで一君の手を取りみんなの元へ走り出した。
みんなに囲まれるようにして一人一人の顔を見つめ、
「心配かけちゃってごめん…ただいま!」
「「おかえりなさい!」」
私が笑顔になるとみんなも笑顔をくれる。なんて温かい子たち。
この子たちと知り合えて本当に良かったと心から思った。
そして私の力の限り、支えたいと。
この子たちが頂の景色に手が届くように…
練習が再開されれば、青城のマネとしてキビキビ働く。
時折烏野の方に行きレシーブを教えながら。最初に見た時よりも翔陽君も蛍君もレシーブが綺麗になってきている。
そこでふと思い出したことがあり、夕君と大地君を呼んだ。
「大地君と夕君、"左"のスパイクって受けたことある?」