第3章 磨励自彊ー2日目ー
とおる君の母親はまだ現れない。
全く、子供ほっといて何してんのと怒りたくなってきた。
でも一生懸命探しているのかもしれないと思うと胸が痛くなる。
一方とおる君は私と遊んで楽しそう。
まあ泣き出さないのは本当に偉いと思う。
「とおる君、お姉ちゃん電話してきてもいい?」
「京香ちゃん、どっか行っちゃうの?」
「ううん、ママ来てくれるまでここにいるよ。お姉ちゃんはね、お友達と一緒にいたの。だからお友達のところに電話して」
「京香ちゃん!」
「へ?うわっ」
そろそろ誰かに連絡しないと探しに向かいそうだと思い、電話してきたいととおる君に説明していると、名前を呼ばれて強く抱き締められた。勿論とおる君ごと。
「ちょ、何するんですか…!」
「京香ちゃんよかった…よかった」
「オイ!いきなり何だ…て、京香さん!」
「あれ、一君…?てことは、徹君?」
私を抱き締めている誰かは力を弱める気はないらしい。
逃れようとしても逃れられなくて、叫んでやろうかと思った矢先此方に走ってきた人物に驚いた。彼がここに居るということは、と考えると抱き締めている誰かは明白で。
心配して探してくれてたんだ、とわかれば申し訳なく思う。
「うぅ…」
「あっ!徹君力緩めて!とおる君が居るの!」
「…はぁ?」
胸あたりで唸る声にハッとすれば徹君の背中を叩いて離させようとする。私の言った意味がわからなかったのか首を傾げる一君。ちょっと引き剥がしてと手招きして徹君を剥がしてもらえばとおる君を抱き直して頭を撫でる。
「とおる君ごめんね大丈夫?」
「…うん。京香ちゃん怖かった」「引き剝がしたの京香ちゃんでしょ!…え?」
「あ、徹君此方迷子のとおる君。此方さっきお話したお姉ちゃんのお友達の徹君」
「へぇ、同じ名前なんだ。宜しくねとおる君」
「…僕この人やだ」
「ぶっは、ガキに嫌われてやんの」
「ちょっと!岩ちゃん吹き出さないで!京香ちゃんも笑わない!」
「ごめんごめん、此方が一君だよ」
「宜しくなとおる」
「…うん!はじめ君!」
「何で岩ちゃんには懐くの!」
一君がとおる君の頭を撫でてやると一気に懐いたようで。
嫌われた徹君は、いじけはじめてしまったのであった。