第3章 磨励自彊ー2日目ー
ー及川sideー
「とりあえず、ショッピングモールを探すぞ。花巻たちから連絡がねえってことはまだ戻ってねえってことだ。行くぞ及川」
「あ、待ってよ岩ちゃん!」
残った希望はこのショッピングモールのどこかにいるかもしれないということ。歩き出した岩ちゃんに置いてかれないようにと小走りで追い付く。周りを見ながら歩いているとぶつかりそうになる程の人だ。
「あの、及川先輩ですよね…!いつも応援してます!」
「あー、ありがとう。でもゴメンね、今ちょっと人探してて。またね」
途中、青城の生徒であろう女の子たちから声を掛けられて歩みが止まる。いつもならニコニコして構ってあげるのだが、今はそんな余裕がない。すぐに女の子たちから離れた俺を見て岩ちゃんは驚いたような顔をしていた。文句を言いたかったけど、何倍にもなって返ってきそうだったからグッと堪えた。
「3階には居ないようだね」
「だな、下行くぞ」
3階のフロア全て見て回ったけれど京香ちゃんの姿はなかった。こういう時に岩ちゃんが一緒に居てくれて助かる。
きっと俺一人なら見つからないことに焦って混乱しているだろう。
2階に下りてまた探す。フードコートやゲームセンター。
京香ちゃんが行きそうにない場所まで隅々と。
もしかしてどこかに連れ込まれてるかもしれないとトイレや従業員用の扉の前まで。
しかし、どこにも京香ちゃんは居なかった。
残すは1階のみ。
無意識に握った拳の力が強くなり、短くしてある爪が食い込んでチクリとした。
頭に軽い衝撃がきてハッとする。岩ちゃんに殴られたようだ。
「てめぇがそんな顔してどうする。見つかるもんも見つかんねえよ」
「ごめん、岩ちゃん」
また岩ちゃんに元気付けられて苦笑する。
エスカレーターを降り、少し歩いてから視線を何気なくインフォメーションセンターに向けた時目を見開いた。
「おらまだ1階が残ってんだ。しっかりしやがれ。…て、及川?」
「い…た…!京香ちゃん!」
動かなくなった俺を心配そうに見てくる岩ちゃん。
ごめん岩ちゃん。今岩ちゃんに構ってあげられない。
だって居たんだ、そこに、愛しい彼女が。
間違いない、京香ちゃんが。
名前を呼びながら、人にぶつかるのもお構いなしに俺は京香ちゃんの元へ走り強く強く抱き締めた。