第3章 磨励自彊ー2日目ー
「京香さん!さっき階段から落ちそうになったって…!」
「と、飛雄君大丈夫!私怪我もしてないから落ち着いて!」
午前練の休憩中。どうやら先程のことを聞いたらしい飛雄君が血相を変えて私の元へ走ってきた。その勢いは止まることなく、私の肩を掴んでそのまま壁へ追い詰めてくる。
こうなった飛雄君の力は強くて、私がどんなに押し返しても無駄なのは知っている。眉間に皺を寄せながらも心配そうな表情の彼を見上げれば安心させようとする。
私が一歩一歩と押されながら後ずさりしていくと、誰かに受け止められた。ごめん!と謝ろうとするも、受け止めてくれた人物の方が口を開くのが早くて私は言葉を飲み込んだ。
「あのさ飛雄、もっと女性は丁重に扱わないとダメだろ。京香ちゃんは俺が助けたから怪我もさせてないわけ」
「及川さん…京香さんに何もしてないですよね」
「はぁ?何もって…お前じゃないんだから」
私を受け止めてくれたらしい徹君は、思いっきり意地の悪そうな顔をして飛雄君の手を振り払って私から引き離した。
眉間の皺が一段と濃くなった飛雄君。
また私を挟んで頭上で睨み合いが始まる。
「全く、すぐそうやって睨み合う。2人でやってるのは勝手にしてくれて良いけど、京香さん巻き込むなよー」
「クソ川また迷惑かけてんのかてめぇは!」
「うげっ、岩ちゃん。違うの!飛雄から京香ちゃん助けてただけ!」
「お、俺は京香さんが心配で…!」
どうやってこの状況から抜け出そうかと考えていると、救いの手が差し伸べられた。声がした方を向くと、孝支君は眉を下げていて、一君は反対に眉を吊り上げていた。共通点としては腕を組んでいるところだろうか。
「あ、京香さんさっき花巻君、だっけ。探してたけど」
「貴大君が?あっ…練習見てって言われてたんだった!ちょっと行ってくる。孝支君も一君もありがとう!」
孝支君の言葉にハッと思い出せば、その場から逃げるように手を振って青城部員たちがいる方へと走り出した。
「貴大君!ごめん探してくれてた?」
「あ!京香さんどこ行ってたんだよ。朝の約束、俺のフォーム見て」
「うん。私がトスあげるから打ってみて?」
よっしゃ!と貴大君は笑う。
視線を感じながらも私は貴大君のことだけに意識を集中させた。