第3章 磨励自彊ー2日目ー
「よし、じゃあみんなのドリンク作ってこようか。あ、私水道まで持ってくから仁花ちゃんタオルお願いしていい?」
「はいっ!」
「慌てなくて大丈夫だからね!」
たくさんのスクイズボトルが入った籠を持って体育館外の水道場へ。えーと、確か濃さは…とボトルの名前と好みの濃さを照らし合わせながら粉を入れていく。青城レギュラー陣の物が出来れば、籠に入れて次は烏野のボトルを用意して粉を入れていく。
籠2つ分が出来れば、よいしょと両手に持って体育館へ。
「お、重たい…!」
ゆっくりと階段を上っていたのだが、階段の踊り場に差し掛かった時、重心が後ろに行きすぎて踏ん張れず転げ落ちそうになる。
まずい…!
そう思っていても両手は籠を持っていて塞がっているので手摺りを掴むことも出来なくて、重力に逆らえず身体が浮いた感覚がすればかなりの衝撃を覚悟して私は強く目を閉じた。
しかし、落ちそうになった瞬間誰かに強く腕を引かれてその場に踏み止まることが出来たようだ。
そのはずみに私の手から籠が落ち、ガラガラっと盛大な音を立ててひっくり返った籠の中のボトルは散乱してしまったけれど。
「京香ちゃん!…危ないでしょ!なんでそうやって無茶するのかなー!俺が居なかったら頭うってたんだからね!」
そのまま抱き締められる感覚と共に聞こえてきた声。
口調はいつもと変わらないのだが、声色が違う。
どんな表情をしているのかはわからないが、かなり心配をかけてしまったらしい。
「ごめん、徹君。助けてくれてありがとう。ボトル全部転がしちゃった…」
「ボトルなんてどうでもいい!」
ピシャリと怒る声。
普段とのギャップに思わず息を呑んで肩をビクッとさせた。
「京香ちゃんに怪我なくて本当良かった…」
「徹君…」
ぎゅうっと私を抱き締めている腕の力が強くなる。もしかして泣いているのだろうか、私が無事だと安心する徹君の声は震えていた。
「ごめん、ごめんね徹君」
「…もう無茶しないって約束して。うちの部員使っていいから!寧ろ俺とか岩ちゃんとかちゃんと呼んで!」
「うん、わかった。もう1人で無茶しないから…」
相変わらず抱き締めている力を弱めない徹君。結構苦しいけど、徹君の気がすむまで大人しくしていよう。私は未だに震えている声の徹君をなだめるようにその大きな背中をそっと撫でた。