第1章 合縁奇縁
「お疲れ様です!部長、あのちょっと良いですか?鷲匠監督から頼まれて・・・お気を悪くさせたら申し訳ないのですが・・・」
練習の休憩中、ドリンクとタオルを取りに来た部長を捕まえればクセとアドバイスを伝えようとする。
でも先輩だし、私はマネージャーだし、生意気って思われたらどうしようって思ったらなかなか言い出せなくって引きとめたものの続く言葉が出てこなくて俯いた。
なんでもないです、すみません。と言おうとした時、ポンッと何かが私の頭に乗ったのに驚いて俯いた顔を上げると若利のような無愛想な部長の手だった。
「何も怖がることはない。何か気になることでもあったのか?」
「あ・・・えっと、私なりに先輩達のこと見ていて思ったことがあって・・・」
表情とは裏腹に優しい声、あぁこの人も若利と同じで表情を表に出すのが苦手なだけで優しい人なんだと思えば、脇にあったノートを差し出した。
「私なりに分析したクセです。部長ですと、この時に――」
内心ドキドキしながらも、私の話を真剣に聞いてくれる部長が嬉しくて、少しでもこの人たちの役に立ちたいと思った。
部長とクセやアドバイスについて話していると、いつの間にかそこにはレギュラー陣が集まっていて、みんな真剣にノートを読んでくれている。
そして、私からの話を聞いてくれて、納得してそれを実行してくれている。
次第に私からのアドバイスではなくなり、部員自ら私にどうすれば良いのかと尋ねてくるようになった。
一応私だってバレーは出来るからと、一緒になって練習したりしてるうちに白鳥沢はますます強くなっていった。
奇抜な攻撃手段はないけれど、個々の力を伸ばすことに成功したことによって全国大会へは常連となり、それに伴い白鳥沢をここまで強くしたのは一人のマネージャなのだという噂も出てきたのである。
私はあくまで自分の思ったことを選手に伝えただけで、それを選手が実行して強くなったのだからと、バリボーの取材等は断っていたのだが、いつの間にか私は"勝利の女神様"という異名を勝手につけられたのである。