第2章 為虎添翼ー1日目ー
キィ、とゆっくりベランダに続くドアを開ければ私を呼び出した人物は既にベンチに座っていた。
私が来たことに気付くと立ち上がる。
「すいません、呼び出したりして…」
「大丈夫気にしないで。どうかした?」
バツの悪そうな顔。風が吹けば彼の黒髪を揺らす。
私もベンチに座れば、呼び出した張本人…飛雄君も座った。
「俺、改めて及川さんのトスとか間近で見て…敵わねえなって思ったんです」
「例えばどこら辺が?」
「俺にはない、スパイカーからの信頼とか…打ち易いトスとか…」
「うん、そうかもしれないね。徹君は信頼もあるし、スパイカーによってベストなトスを上げてると思う」
「……」
「じゃあさ、飛雄君は烏野のみんなを信頼してる?」
「俺が…信頼…?してる、と思います」
「ふは、それは蛍君も含まれてる?」
「つ、月島は…その…」
珍しく自信がなさそうな飛雄君。俯きながら話す様子を隣から見つめ、どうすべきかと頭を働かせる。
私から見て、まだ蛍君と飛雄君の間には蟠りがある。言い淀んだ飛雄君の素直な反応に思わず笑ってしまった。
「きっとね、徹君にはそれがないの。例え性格が気に入らなくてもバレーでは別。コートに入ったら心から信頼してる。だからこそスパイカーからの信頼もある。私はそう思うよ」
「心から信頼…」
「でもね、信頼なんて1日2日で築かれるものでもない。先ずはさ、少しずつ自分から信頼してみたら?飛雄君のバレーは始まったばかりでしょ?」
「うっす」
やっと顔を上げてくれた飛雄君。一安心して微笑む。
その瞳には少し闘志が戻ってきたようだ。
飛雄君はそうでなくっちゃ、と頭を撫でれば恥ずかしそうにするも大人しく撫でられてくれている。
「徹君を超えるのは飛雄君なんでしょ?私、楽しみにしてるからね」
「それ、聞いてたんすか…」
「たまたまね!でもあの時思ったんだ、向上心も闘争心も申し分ない子だなって。それで飛雄君のこと気になったんだよ」
「気になっ……!」
「だから烏野のバレーが見たくなった。どんなバレーするんだろうって…あれ、飛雄君大丈夫?」
「だ、大丈夫っす!…他の奴らに、気になるとか…言わないで下さい」
飛雄君の顔が真っ赤になったように見えて心配になる。今風邪でもひかせたら大変だ。しかし、首を振った飛雄君は私の手を握って、力強い目で見つめてきた。