第2章 為虎添翼ー1日目ー
「力君!ちょっと審判お願い」
「え、もしかして京香さんと菅原さんが…?」
「うん。孝支君に勝ってやる…!」
「ははっ、俺も負けないべ」
近くにいた力君を呼んできて孝支君と机を挟んで座る。
心配そうな力君に任せてと微笑めば、ジャージを腕まくりして孝支君と手を組む。
「レディー……GO!」
力君の声と共にグッと力を入れる。
選手を辞めてから何年も経つが、まだ腕力は衰えてないはず…
ーなのにビクともしない。
恐らく倒されないように少し力を入れている状態の孝支君。
相変わらず表情は余裕なのか笑顔だ。
「女性にしては強いとは思うけど…」
孝支君がそう言えば、腕に力が入ったのがわかった。
まずい負ける…!そう思って耐えようとするものの、パタンと私の手の甲は机にくっ付いていた。
「うぅう…負けた」
「流石に男と女の力の差は仕方ないですよ」
「悔しい…悔しい悔しいー!」
「だから俺以外の前じゃ油断したらダメだよ?」
「スガー、悪い花巻に負けた」
「何だよ大地ー俺の仇とるとか言ってたべー」
「悪い悪い」
私が孝支君に負けてむすーっとしてると、頭をポンポンと撫でてきた孝支君は耳元で囁けば大地君に呼ばれて戻って行った。
もうちょっと腕力付けようかなって少し弛んでる二の腕を触る。
「京香さんはそのままで良いですよ。きっとみんなもそう思ってます。そのままの京香さんがみんな好きですから」
「力君…は、恥ずかしいから!」
「はは、やっぱり京香さんは可愛いですね」
まだ近くにいた力君が私の手をそっと握った。
温かい言葉に恥ずかしくなってくれば、顔が赤くなる。
だけど手を握られてしまっているので顔を隠すことが出来なくて俯く。
「俺は……踏み出す勇気がないけど…」
「ん?力君何か言った?」
「あ!いえ…ほら京香さん準決勝ですから応援してあげて下さいよ」
「あ…うん!」
ボソリと何かを言ったように思ったのだけれど、何でもないと首を振る力君。そのまま腕を引かれて椅子から立ち上がれば背中を押される。頷けば私は準決勝を開始しようとしているみんなの輪の中に入った。
「…京香さん。俺も京香さんが好き…でした」
力君のその小さな呟きは、みんなの歓声によって私には届かなかった。